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一、

 晴天の空。(まばゆ)く射し込む光がワックスのかかる木の板を乱反射し、廊下を明るく照らす。

 視界の晴れる廊下を歩き、騒がしい教室へと入室する。

 話し声が飛び交い、絶え間ない忙しなさが充満する。大田透(おおたとおる)は乱雑する(こと)の矢印を見て見ぬふりして席に座った。

 学校に鳴り響くチャイムが騒々(そうぞう)しい教室を静寂(せいじゃく)に変える。立っていた生徒が決められた席に座り、その中で立つ生徒はいなくなった。

 小池文太(こいけもんた)が前(とびら)を開く。

 緊張の波が教室全体に広がり、生徒は背筋を伸ばした。

 文太は慣れた手付きで授業を進める準備をする。プリントが配られ、教科書を開かせた。透は指示通りに指定されたページを開き、大まかな内容を予測する。

 文太は生徒をマリオネットのように動かしていく。操られた人形は白紙のプリントを黒のシャーペンで汚していく。

 開いた教科書は参考程度で使うが大半は使うことはなく、ただ作業の邪魔となる。透は机から落ちかける教科書を支えながらプリントを埋めていった。

 教科書を教えるのではなく教科書は資料の一つとして教える。文太はそれをモットーに授業を進めていく。「教科書に載る内容は自主勉強で覚えろ」と言うのが彼の口癖(くちぐせ)だった。

 展開が一通り終えると、一間の時間が空いた。

 文太は反射的に答えることの出来ない質問を投げかけた。「合ってる」や「違う」などでは答えられないため、頭を早く回転させて答えを模索(もさく)した。

 答える生徒が誰もいない。

 文太は誰も答えられないことを感じ取り口を開いた。

「それじゃあ、隣同士で相談し合っていいぞ!」

 透は右隣にある空白の席を見た。隣の生徒は欠席であり、相談することが出来ない。

 その生徒はよく欠席をする生徒であり普遍的なことであった。

 透は諦めて一人で難題に立ち向かった。

 波に浮かぶ小舟に乗る透が難題という壁にぶつかると、小舟は容易(たやす)く転倒、沈没してしまった。

 透はカメレオンのように気配を消して質問を答えないことを決めた。


 バタン、と後扉が開かれる。

 (たけ)が長いスカート。身嗜(みだしな)みは生徒指導に引っかかる程悪い。鋭い目つきが教室を(こお)らせた。

 神崎双葉(かんざきふたば)が透の隣の席に腰を下ろした。

 眼が青っぽく見えた。

 殺気の含んだ圧迫感が薄れてお(しと)やかな印象へと急変する。

 双葉は言う。「遅れてすみません」

「おう。今日はそっちの人格なのに遅れるなんて珍しいな」

 文太は双葉の予想外の行動に興味を持ち、発言した。

 双葉は申し訳なさそうに、小さく声を出した。静けさが残っていたため小さな声でも遠くへと響いた。

「そうですね。ちょっとトラブルに巻き込まれて……」

「トラブル? 何かあったのか。大丈夫か?」

「はい。もう一人の自分(・・・・・・・)が喧嘩を売った相手に絡まれました。無事に逃げ出すことは出来ましたが、そのために遠回りをしたために遅れました」

「そうか。大変だったな。準備が出来たら授業に参加してくれ」

「分かりました」

 双葉は教科書を机上に置くと、柔らかい表情で透の肩を軽く叩いた。

「ごめんなさい。授業がどこまで進んだか、教えて下さい」

 双葉は優しく微笑(ほほえ)んだ。

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