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第08話 新居

 職業保証人なしで借りられる物件なんてあるわけがないと、半分諦めながら探していたのだが意外と簡単に住む場所は無事に見つかった。見つかったのだが……。


「ねえ、コタローちゃんお店にでてみよ? お家賃半額にしてあげるから! 一回だけ!! ね?」


「だが断る!!」


 越してきて数日になるが、毎日のように繰り返されているやり取りだ。俺を誘っているのはオーナーの大輔さん。一階部分で営業しているバーの店長でもある。二階と三階は別のお店に貸し出していて、俺と霞が住んでいるのは四階にある二十畳ほどの倉庫部分だ。


「コタローちゃんなら絶対似合うと思うのよ。霞ちゃんも女の子姿のコタローちゃんを見たいわよね?」 


 話を振られた霞はあいまいな表情で笑いながらラップトップをいじっている。そこは力強く反対してほしいところだ。


 もうお分かりだろうが大輔さんが経営しているのは「男の娘バー・最後の楽園」男の娘とか名乗ってはいるが、所属しているのは店名のイメージとはかけ離れた人たちばかりだ。それなのに常連客が多く、繁盛していて歓楽街の七不思議といわれているらしい。


「とにかく嫌だ! 一度だけとか言いながら、次からは一度やったんだからとかって引き込むつもりなんだろ」


「つれないわねえ。コタローちゃん無職なんだから仕事を紹介してあげてるんじゃない」


 大輔さんは最後に、気が向いたらいつでも雇ってあげるわよ。と言い残して一階へと去っていった。


「あはは……。小太郎も大変だね」


「まったく、笑い事じゃないぞ」


 そうはいっても大輔さんが絡んでくる理由は分かっている。現金で安くはない家賃一年分を払えるのに保証人を立てることもできない。どう見ても訳ありの俺たちの様子を見に来るための彼なりの口実なのだろう。見ようによっては駆け落ちの男女にも見えるだろうし、心配してくれること自体には感謝するべきなのかもしれない。


 俺は中断していた作業を再開して部屋の片づけを始める。もともと倉庫なだけあって雑多な品物が大量にある。大体は店を飾り付けるための季節のものでクリスマスツリーやら南国っぽい書割(かきわり)などをパーティション代わりに部屋を区切っていく。


 ガタが来て倉庫送りになったテーブルを動かしたその時、隠れていたらしい一匹のハエトリグモが飛び出して来た。その様子をみて俺は霞のこと、というより妖怪というものの存在について考えを巡らせる。


「妖怪っていうのは、普段居るとは思わないのに突然現れて人を脅かす。要するにGみたいなもんだろ?」


「Gってなに?」


 どうやら考えていたことをそのまま口に出していたようで、霞が首をかしげながら聞いてくる。


「ああ、Gってのはゴ○ブ○の事だな」


 いつもより低い声で「へえ……。小太郎は長生きしたくないんだ?」と、小さくつぶやく霞の体からは強烈な殺意の波動がにじみだしている。そんなつもりじゃないと言い訳してみるものの、誤魔化しきれるものではない。ここは素直に謝罪しておくほかはないだろう。


「俺が悪かった、許してほしい」


「わたし、またレストランに行きたいな」


 霞はもうレストランでの夕食を勝ち取ったつもりらしく、いつもの表情でニコニコと笑みを浮かべていた。いつも自炊するばかりで初めて会った日以来外食はしていない。


「わかった。じゃあ出かけるとするか」


「あのね、わたしは駅前にあるSNSで話題のお店に行ってみたい。ダメ?」


 普段はネット通販で好き勝手にいろんなものをポチッているというのに、夕食のレストラン選びでは遠慮するのはよくわからない。どこでもいいぞと返事すると霞は嬉しそうにほほ笑む。


「店の名前と場所が分らないんだが、なんて店だ?」


 霞が言った店名と場所を聞いて思い出す。確か半年ほど前にオープンしたとペーパーを配っていた気がするが、話題になっているとは知らなかった。予約なしで大丈夫なのかと思ったが、まだ夕食にはかなり早い時間だったこともあって問題なく席に案内された。


「美味しいね」


「確かに」


 想像以上にその店の料理は美味しい。どうせ写真映えする為に盛り付けばかりに凝っていて味は大したことがないんだろうと思っていたのだが、良い意味で期待を裏切られた。


「んふふぅ、幸せ」


 食べ終わるのを待ち構えているように次々と運ばれてくる料理を、霞は本当においしそうに食べている。ふと気になって霞に聞く。


「なあ、妖怪も食べる必要あるのか? 食べないと飢え死にするとか?」


「食べなくても死なないっていうのと、だから食べないっていうのは別だよ」


 霞の返事はそっけないものだが納得のいくものだった。例えば風呂に入らなくても死なないが、だからと言って入らないっていうのとは別だしな。「確かに」と答えると霞は満足そうに頷いて運ばれてきたばかりのデザートに手を出す。


 会計を終えてレストランから出たところにそれはいた。


「ワテの姿が見えるんやな!! お願いします! 助けて下さい!」


 そういったのは絵にかいたように見事な河童だった。

大輔さん(源氏名:リカちゃん)はたまに出てくる程度のキャラになります。

一応嫌いな人も居るかもしれないので念のため……


毎日更新していく予定です。

ブクマ・評価などでで応援してくれるとめっちゃ嬉しいです。


皆さんのおかげで日間ローファンタジーランキングに入りました!

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人類最強の暗殺者と史上最弱の勇者
今までの作品とは雰囲気が違いますが、楽しんでいただければなあと思います。



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