第69話 福引
お待たせして申し訳ありませんでした。
PC故障から復帰しました。
今回はRyzen5で、Mini-ITXで組んでみました。
今日は霞に荷物持ちとして誘われて、近所の商店街へと買い物に来ていた。俺一人ではあまり来ない場所なこともあって珍しいものばかりだ。
普段から引きこもり気味で、通販に頼り切っている霞が商店街というだけでもかなり驚きなのだが、それ以上に驚く事がある。
「あら、霞ちゃん。今日は良い野菜入ってるよ。見て行っておくれよ」
声をかけてくる八百屋のおばさん。こんな調子で、商店街の人々に名前を憶えられているのだ。八百屋だけでなく、少し前には魚屋のオヤジに呼びとめられ、俺には名前すら分からない変な魚を貰っていたし、肉屋のおっさんは魚を持っている霞をみて悔しがっていた。
「おっ、ほんとうだねえ。これは良いカボチャだよ。これは買いだねえ」
「ありがとうね。じゃあ、このちょっと古くなったトマトをオマケで入れとくよ」
おばさんはそう言って野菜を袋に詰め込んでいく。その姿をニコニコと見つめている霞に尋ねる。
「なあ霞、魚や野菜を買うだけならもっと近所のスーパーでよかったんじゃないのか?」
「小太郎は分かってないねえ。スーパーは目玉商品以外は少し高いし、なによりこういうお店の方がいい食材が揃ってるんだよ」
霞の言葉に、野菜を袋に入れ終わったおばさんがうんうんと同意している。
普段役に立たない変なグッズを通販で買いまくっているのに、野菜のちょっとの値段を気にしているという霞の発言に、俺は突っ込みたくて仕方ないがぐっとこらえて話題を変える。
「魚と野菜が手に入ったし、これで買い物は終わりか?」
「まだだよ。わざわざ商店街まで来た一番の目的がのこっているからねえ」
そういって霞に連れていかれた先は、今にもつぶれそうな外見のスパイスショップだった。
外観とは違っていて綺麗な店内で、スパイスの納められたガラス瓶が所狭しと棚に並べられている。どうやら量り売りをしているらしく、瓶に入っているスパイスの分量はまちまちだ。
店の奥に座る店番らしき婆さんは、俺たちが入ってきたにも構わず設置されたテレビを見ている。暫くして良い場面が過ぎたのか、ゆっくりと振り返った婆さんは、霞の顔を見てうれしそうな声をあげた。
「おや、霞ちゃんじゃないかい。そろそろ来る頃だと思ってたよ」
「やっぱり、ここのスパイスじゃないとねえ。えっと――」
霞は色んな瓶を指さして次々とスパイスを注文していく。俺にはまるで何かの呪文のようにしか聞こえない。名前に続いて重量を言っているおかげで、なんとかそれがスパイスの名前だと分かる程度だ。
俺が知らないスパイスの名前をスマホで検索している間に買い物が終わったらしく、婆さんは手早くスパイスを計量して包装していく。
「霞ちゃんは福引はしないんだっけねえ?」
「そうだよ。わたしと小太郎はそういうのはやっちゃダメなんだよ。必ず当てちゃうから」
霞の言葉を聞いた婆さんは不敵な笑みを浮かべる。
「それは重畳。これをもって福引してから帰りな」
「一等引いちゃうから! だから、ダメなんだって」
「それがいいのさ。あいつが泡を吹く様を見るのが楽しみだあ」
婆さんは半ば強引に福引券を押し付けると、またテレビの方を向いてしまう。俺と霞は仕方なしに店を出て歩き始めた。
「小太郎どうしよっか?」
「やらずに帰ってもいいんじゃないのか? 絶対に使わないとダメというものでもないだろう」
「それもそうだね」
暫く歩くと人だかりの出来ている福引会場が見えてきた。行きにも通ったはずだが、興味がなかった事もあってノーチェックだ。しかし、あれだけ強く押されるとやはり気になってしまう。
「ちょっと見るだけ見てみるか」
「そうだね。どんな景品があるのか気になるよ」
会場をのぞいてみるとどうやらもう福引期間が終わりらしく、既に上位の景品は残って無かった。
「一番いい物でも洗剤くらいしか残ってないな。これなら引いて帰ってもいいんじゃないのか?」
「そうだねえ。小太郎に任せるよ」
霞が差し出してくる福引券を受け取った俺は待機列に並ぶ。福引をする人たちは、流れ作業のように白い球が排出されてポケットティッシュを貰って去っていく。せいぜいがポケットティッシュを持っている数が違う程度だ。
「はい、一回ですね。このハンドルをまわしてください」
俺は係員に言われるままガラポンのハンドルを握ってまわす。この機械、正式には新井式回転抽選器という名前らしい。
ガラガラと中の玉が混ざる音がして、受け皿の上に転がり出る玉。それをみて係員のおばさんの表情が変わる。視線の先には、金色に輝く玉があった。
「えっ……。一等の玉は抜いてあったんじゃ……?」
係員のおばさんのつぶやきに、俺の後ろに並んでいた人たちから「おい! 今のきいたか?」「不正を認めた?!」などという声が聞こえてくる。
自分の失言に気付いたのか、係員のおばさんはスタッフ用のテントの中へと逃げ込むように入ってしまう。残された若い係員は事態の収拾をしようとするが、騒ぎ出した客に問い詰められてしまう。
赤いはっぴを着た六十がらみの禿げあがった男が大声をあげながら近づいてきた。
「なにやら手違いがあったようです。お客様ちょっとこちらへ」




