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第64話 河童の学校

 ドンドンとドアをノックする音が響く。安太郎がやってきたのだろう。俺はドアを開けに向かうが、雪さんに呼び止められる。


「小太郎様、待ってください」


 立ち止まると、雪さんは手を伸ばして、肩に乗っていた糸くずを取ってくれる。


「もう大丈夫です」


「すまないな。ありがとう」


 安太郎相手に、今更糸くずを気にするほどでも無いだろうが、雪さんの気づかいはありがたい。

 鍵を開けてドアノブをひねると、立っていたのは安太郎ではなく、想像だにしていなかった人物だった。


「うおっ、雪さんこいつアレだよな……」


「そうですね。あの時のターボババアに間違いありません」


 俺と雪さんの言葉をきいて、他のみんなも集まってくる。


「ターボババアってのは何だい?」


「え! わたしも見たい見たい!」


 見たがる霞に、ターボババアをよくわかってないらしい都さん。ココ「なんですかそれは?」と、スマートフォンで既に検索中のようだ。


「で、ターボババアが何の用だ?」


「………………」


 しかし、ターボババアは沈黙するばかりで何も言葉を発さない。走って追いかけてくるというのも謎だが、やってきた理由もまた謎だ。


「黙ってないで何とかいったらどうなんだい?」


 強めの都さんの発言にも動揺を見せず、視線を向けることすらしない。不気味な沈黙に、場の雰囲気は緊張感を増していく。都さんはいつでも戦えるようにと、体にためを作っているようだ。

 沈黙を破ったのは視界の隅に現れた緑色の人影だった。いつも通りの、少し間が抜けたようなのんびりとした口調で言う。


「小太郎はん、どないしたんですか?」


「安太郎か、こいつがな……」


 安太郎はターボババアに目をやって、「土転つちころびですな。これがどないしましたか?」と事も投げ言う。


「土転び? ターボババアだろ?」


 俺はスマートフォンで土転びについて調べる。山道を通る旅人を、後ろから追いかけてくる妖怪らしい。そのほかにも、色々なバリエーションの伝承があるが、共通しているのは追いかけてくるという点だ。


「確かに土転びとターボババアに共通点は多いが……」


「小太郎はん、土転びはとんでもなく力の弱い妖怪なんで……」


 安太郎の言葉を聞いて、都さんと霞は理解したようでぽんと手を打った霞が説明してくれる。俺とココ、それに雪さんは意味が解らず、首をかしげるばかりだ。


「小太郎。要するにこの子はターボババアでも土転びでもあるんだよ」


「どういうことだ?」


 いまいち理解が追い付かない。土転びというのは蛇だったり、木槌だったりするらしいし、ターボババアは老婆で、見た目からして全く異なっている。


「力が弱い妖怪ではっきり存在できないから、見る人の先入観で姿かたちが変わって見えるんだよ」


「つまり、見る人のイメージ次第で見え方が変わると?」


 正解だったようで、都さんと霞、それに安太郎はコクコクと首を縦に振っている。雪さんにもどういうことか分かったらしく。納得といった表情を見せている。ココだけがピンとこないらしく、不思議そうにしている。


「なるほどな、ホッピングに乗ってたり、バスケットボールをドリブルしてたり、ミサイルに跨る女子高生だったり、果てにはバイクに乗った女僧侶だったりするのは、噂というか都市伝説に影響された結果そう見えてるという訳だ」


「小太郎はん、なんですかそのけったいな連中は」


「なんか、本当に色々うわさがあるんだよ」


 俺の雑な対応に安太郎は微妙な表情を見せるも、納得はしたようだった。肝心のターボババアはというと、俺たちが話している間も微動だにせず、ただ黙って立っているだけだった。


「まあ、何者かは分かったが。結局何の用があって来たんだ?」


「小太郎、それなら普通に言葉を聞こうとしてもむりだよ」


 霞の言葉になるほどと納得する。俺は精神を集中して声なき声を聞こうと意識を傾ける。


『……ジョウブツ、……ジョウブツ』


「ジョウブツってなんだ? 成仏?」


 俺のつぶやきを聞いた安太郎が「多分そうでっしゃろな」と、肯定する。やり取りを聞いていた雪さんが説明してくれる。


「小太郎様、このような低級の妖怪は成仏できなかった人の魂の成れの果てという場合も多いのですよ……」


「そんなことを言われてもな……。俺は魂を成仏させる方法なんて知らないぞ」


 俺は助けを求めるように、皆の方を見るが、雪さんも、都さんも、霞も首を横に振るばかりでいい方法は思い浮かばないらしい。俺は盗人神の事を思い出して、安太郎に聞いてみる。


「そうだ、盗人神はどうだ? 安太郎、たしか神様の河童なんだよな。どうにかできないか?」


「無理でしょうな。神とはいうても、そんな万能なもんやありませんのや」


 安太郎の答えは予想の範囲内だったらしく、霞も「そうだろうね」と頷いている。ココは「小太郎さん。小太郎さん」と、俺の名前を呼ぶばかりだ。都市伝説に出てくるような妖怪を見て動揺しているのだろう。


「斬っちまうってのはどうだい? 成仏というより滅ぼす事にはなるけどさ」


「いや、さすがにそれは後味が悪すぎるだろう。この前の托鉢僧達なら、喜んでやるんだろうが」


 恐らく都さんの言う通り、斬って倒してしまう事は出来るのだろう。ただ、そんな荒っぽい方法は最終手段にするべきだ。願い通り成仏させてやる方法は何か無いのだろうか。


「小太郎さんってば!!」


 大声を出すココに驚いて注目する。狼耳をピンと立てて尻尾の毛も逆立っている。相当おかんむりのようだ。


「すまん。どうした?」


「やっと見てくれました。ターボババアを成仏させるんですよね? なんとかなるかもしれませんよ?」

繁忙期で更新が遅れ気味です。

すみません。

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↓新作です↓
人類最強の暗殺者と史上最弱の勇者
今までの作品とは雰囲気が違いますが、楽しんでいただければなあと思います。



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