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第61話 試食のお味は?

 俺たちが着いた時には、既に試食会がはじまっていた。オフィスの一室に並べられた折り畳みのミーティングテーブルの上には、各地から集められたであろう名産品の数々が並んでいる。


「わたしたちは先に行って食べてるね」


 霞たち三人はそれぞれ思い思いの方向へと歩いていく。室内には色んな部門のスタッフたちが集まっていて、試食してはシートに感想を書き込んでいる。

 とりあえず順番通りに回っていくかと、評価シートを受け取ったところで後輩がやってきた。


「あ、先輩。じゃなかった社長、先に始めてます。今のところは割と好評ですよ」


「任せて正解だったな。会社には馴染めたか?」


「先輩のおかげでホワイトな毎日を送ってますよ。そのうえ給料まで増えて感謝しかありません。あ、社長だ」


「いまのはワザとだろ?」


 後輩から評価のポイントを説明してもらって試食を開始する。あらかじめ厳選されているだけあって文句のつけようがなく美味しいのだが、いくつかは気になるものがあった。やたらと臭いの強いものや、甘すぎるものなどだ。一通り回って戻ってきたところで後輩に直接評価シートを手渡す。


「大体美味しかったけど、ところどころ変なのが混ざってたな」


「あれは、わざとですよ。ああいうアクの強いのが好みで止められない人も一定数居ますからね。実際に評価シートでも高評価を付けた人が二割も居るんですよ」


「なるほどな。でも、においの強い奴は気を付けないと。発送の時に同梱商品にうつりそうだぞ」


 後輩は「確かにそうですね。包装でなにか工夫しましょう」とメモをとる。戻ってきた三人に話を聞くと、雪さんと都さんは臭いが強いのダメらしいが、霞は割と好きだと言っていた。


「え? あんたあれ美味しかったのかい?」


「そういう都ちゃんだって。すっごい辛いの美味しいって言ってたし」


 霞と都さんのやり取りを見ていた雪さんがぼそりとつぶやく。


「二人とも変ですよ……」


 そう言う雪さんに、都さんと霞から「あの甘ったるいの美味しいっていうのは無い」とツッコミが入る。どうやら後輩の読みはあっているらしい。これならより多くのユーザーに喜んでもらえそうだ。


 ついでに高橋さんに一応、鳳来関係のことでなぜか事件に巻き込まれている事を説明しておく。大輔さんが紹介してくれた弁護士の名前を告げると、「その弁護士ついてるなら、何があっても無罪になりますよ」と言われてしまった。高橋さん曰く刑事事件では日本一を争うような弁護士らしい。


「じゃあ、帰るか」


「小太郎、帰りにスーパーによって材料買って帰ろうよ」


 霞の提案に、雪さんと都さんが反応を見せる。


「霞さん夕食は何にする予定なんですか?」


「さっきの試食、酒がなかったからねえ。アタシは酒が美味いメニューがうれしいよ」


「俺は霞の作るものならなんでも食べるぞ。どれも美味いからな」


 歩きながら夕食のメニューを決めようと話すがなかなか決まらない。結局、店に行ってみて安売りになってる食材を使った料理にしようという事になった。


 バス停に着いたがタイミングが悪く、次が来るまでかなり待つことになりそうだ。俺たちの他には一人しか待ってる人は居ない。

 俺は霞が取り出したスマートフォンに映し出される画像をのぞき込む。夜な夜な村人を襲う人狼を見つけて処刑するゲームなのだが、これが結構見ていても楽しい。それは俺だけじゃなく、雪さんと都さんも同じなようで必死に画面を見つめている。


「なあ霞、こいつ人狼なんじゃね?」


「そうかなあ? わたしは違うと思うけどなあ」


 視界の隅でなにかがピクリと動くのが見えた気がして、周りを見るが特に何も見えない。またどうせ警察の連中なのだろう。負けじと雪さんも自分の推理を披露する。


「私も人狼で間違いないと思いますよ? だってどう見ても怪しいですし」


「だよな。ほら霞、絶対に人狼だって」


 またも視界の隅でなにか灰色がかったものが動くのが見える。確認すると学校帰りの小学生たちが公園でバスケをして遊んでいるのが見えた。恐らくあれがチラチラ見えていたものの正体なのだろう。どうやら警察関係で神経質になっているらしい。

 霞は納得がいかない様子で、必死で考察しながら他の容疑者を探しているようだ。


「でも、ちがうかもしれないじゃん。小太郎も雪ちゃんも決めつけは良くないんだよ」


「じれったいねえ。処刑しちまえば良いじゃないか」


「ですです。絶対に間違いないです。処刑しましょう」


「だな、霞もういいだろ?」


 霞は少し考えるような表情を見せるが、すぐに決断したようでチャットで処刑先を決めたという文章を打ち始める。


「みんなそういうなら、処刑するしかないよねえ……」


「人狼が何をしたっていうんですか!! 私たちにだって人権はあるんですう!!」


 霞の言葉を遮るように上げられた声に驚き、声のした方を見る。もう一人いたバス待ちの女の子が涙目でこちらを睨んでいた。

 突然、怒り始めた事にも驚いたが、それ以上にシルバーの毛並みが美しい犬っぽい耳と、同じ毛色のふさふさとした尻尾が目につく。

 それ以外は普通にみえる。真新しく少しサイズが大きめのブレザーの制服は今年入学したばかりなのだろうか。シルバーの髪をツーサイドアップにしている。


「コスプレイヤーってやつか? 人狼気分なのは分かったけど、俺たちが何をしたっていうんだ?」


「白々しい人ですね。処刑するだとか、ヒドイコトを言ってたのを謝ってください」


「あ、ああ。ごめんな。でも人狼ゲームってそういうもんだろ?」


「え? 人狼ゲーム…………?」


 これが人狼少女、犬神ココとの出会いだった。

ココちゃん意外と出番は多くないかもしれません。

モフモフですし……

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人類最強の暗殺者と史上最弱の勇者
今までの作品とは雰囲気が違いますが、楽しんでいただければなあと思います。



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