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第58話 朝駆け

 あれから色々と手を尽くして、雪女の里を出た後の足取りを追っているのだが、なにせ昔の出来事だという事もあってなかなか思うように進まない。最終目的地の港には来なかった記録が見つかったので、里から港に向かう途中でなにかあったのだけは間違いがない。


 今日も朝から、雪さんの淹れてくれた熱いコーヒーを飲みながらトーストをかじる。半熟のベーコンエッグを崩していたところで誰かが扉を叩く。


 こんな朝早くから今度はなんの妖怪が来たのかと扉を開く。そこには制服の警官が三人と、安っぽいスーツ姿の刑事らしき男が二人立っていた。背が低い方の刑事が口を開いた。


「久世小太郎さんですね?」


「ああ、そうだが」


「ちょっとお伺いしたいことがあるんですが、鳳来さんって名前に聞き覚えはありませんか?」


 前に鳳来の家に侵入した事だろうか。証券市場でちょっかいをかけた事はないし、他に思い当たることはない。


「しばらく前、ワイドショーなんかでよく耳にした名前だな。それが何か?」


「知り合いではない?」


「面識はないな。結局用件はなんなんだ」


 刑事二人はお互い何かを確認するように目配せをする。背が高い方の刑事が懐から一枚の写真を取り出し俺に見せる。


「こういう事なんですが、見覚えはないですかね」


 写真にはゴミ捨て場で、全身血まみれで倒れている鳳来秀胤(ひでたね)凄惨せいさんな姿が写っていた。誰かに殺されてこの場所へ捨てられたようにしか見えない状況だ。


「これは……。つまり俺を疑っているということか」


「まあ、はっきり言えばそうですね。長くなりますし署の方で話をきかせてもらえませんかね?」


「わかった、着替える間少し待っててくれ」


 着替えるために中へ戻ろうとしたところで刑事が「中に入っても?」と言ってついて来ようとする。まるで犯人扱いだなと、不愉快な気分になるが彼らも仕事なのだろう。


「ならこのまま行こうか。帰りは送ってもらえるんだよな?」


「もちろんです」


 エレベータで一階に向かって降りる。刑事二人が両側からおれを挟むように陣取って、その周りを遠巻きにするように制服警官が固めている。こんな扱いを受けるのは初めての事なのでさすがに緊張する。そのままパトカーに乗せられ警察署へと連れていかれる。


 取調室とか書かれたプレートが掲げられたその部屋は、二畳ほどの狭い部屋に机を挟んで向かい合うように椅子が置かれていた。俺は奥側の席へと座らされる。


「で、俺のところへ来た理由は?」


「心当たり無いんですか」


 確かに鳳来は俺の名前を知っているはずだが、あのうちでのこづちの一件くらいしか関わり合いがない。正直なところどうやって警察が俺との繋がりを見つけ出したのか想像もつかないというのが正直なところだ。


「さっぱりないな。知り合いじゃないからな」


「変ですね? 向こうは久世さんの事をよく知ってたみたいですよ」


 そう言って刑事は、ダンボール箱の中から証拠品袋に入った黒い手帳を取り出す。


「この手帳ね。鳳来さんが死んだ時に持ってたものなんですけどね。久世さんの事ばかり書いてあるんですよ」


 刑事は手帳の中身の写真を、どんどん封筒から取り出しては机の上に並べていく。どのページにも、俺に対する恨み言が延々と書き綴られている。自信満々で俺のところへきた理由がこれで分かった。


「ほらね。久世小太郎のせいでこんな目にあっているとか、久世は許さないいつか殺すとかかいてあるでしょ? これだけ恨まれてるのに知り合いではない?」


「知らないな。一方的な逆恨みだろう」


 全く面倒な手帳を残してくれたものだ。死んだ後でまで俺に迷惑をかけるだなんて、本当に疫病神のような奴だな。刑事は俺の返答が気に入らないようでまくし立ててくる。


「鳳来さんがあなたの事を襲ったんじゃないんですか? それで返り討ちにしちゃったんでしょう? そうなら早く言ってください。過失致死とか軽い罪ですむかもしれない。もしかしたら、正当防衛だって成立するかもしれないんですよ」


「だから知らないと言ってるだろう」


 同じような問答が延々と続く。何度聞かれたところで答えは変わらないというのに、ほしい答えが返ってくるまで続けるつもりだろうか。一時間以上も押し問答が続いたところで遂に刑事が大声で叫ぶ。


「知らないわけがないだろう!」


 刑事はすぐに「すみませんでした」と態度を改める。これも取り調べのテクニックなのだろうが、鳳来が最近どうしていたかなんて全くあずかり知らぬことだし、ましてや殺す必要なんてない。


「知らないものはいくら聞かれても知らないからな」


 ちょうどその時もう一人の刑事が部屋に入ってきて、何やら耳打ちをすると二人揃って部屋を出て行った。手持無沙汰になった俺は、机の上に並べられた手帳の写真を見ながら刑事が戻るのを待つ。座敷わらしとうちでのこづちに対する恨み言が殆どだが、見逃せない一文を見つける。


――なんとか手元に残ったこれさえあれば、久世に一泡吹かせてやれる。


 部屋に戻ってきた刑事は鬼のような形相で俺を見つめながら「弁護士が迎えにきたから帰っていいぞ」と吐き捨てるように言う。


「弁護士? そんなもの頼んだ覚えは無いんだが」


「白々しい事言ってないで、さっさと帰れ」


 部屋を出たところで待っていたのは、やはり見た事の無い男だった。


「頼んだ覚えはないんだが……」


「初めまして、大輔さんから紹介を受けてきました。刑事事件が専門です」


 弁護士に車で送ってもらいながら話をする。霞たちから話を聞いた大輔さんが手配してくれたらしい。大輔さんには借りばかりができていくな。

鳳来さんのせいで警察沙汰に巻き込まれてしまいました。

なんて迷惑な人なんでしょうか……

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人類最強の暗殺者と史上最弱の勇者
今までの作品とは雰囲気が違いますが、楽しんでいただければなあと思います。



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