表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/73

第57話 僧侶

 俺は集落にある寺の住職に連絡を取り、過去の記録を調べたいと頼んでみる事にした。地理的に雪女の里を襲撃する際に、あの集落を拠点にした可能性が高い。何らかの記録が残っていれば手掛かりになるかもしれない。


「わざわざ送ってくれるのか? それは助かる」


「いえいえ、久世さんたちには大きな恩がありますからな。これくらいお安い御用です」


 こちらから調べに行くつもりだったが、記録を送ってくれるというので言葉に甘える事にした。貴重な資料だろうに、貸し出してもらえるなんて本当にありがたい。


「少し相談してもいいかな? 実は髪が伸びる人形を入手してしまって……」


「ふふ、久世さんはそういうモノに好かれているようですな。本山の方でそういうものを預かって供養しているので、私から連絡しておきますよ」


「引き取ってもらえるという事か?」


「気持ち程度の供養料は必要になるでしょうが」


 住職に丁寧にお礼をいって電話を切る。髪が伸びるだけの人形も、なんとか引き取ってもらえそうな雰囲気でありがたい限りだ。


 宅急便で送ってもらう予定の古文書が届くよりも早く、人形を引き取ってもらう話の方が進んだのは意外な展開だった。


「この子、引き取られていくんですね」


 そう言って雪さんは日本人形に視線を向ける。


「存在感だけはあったからねえ」


「アタシはこれがどうなるのか育ててみたかったけどねえ」


「確かになくなるって言われると少しさみしい気も……、まったくしないな」


 午後には僧がやってきて引き渡すことになる。それまでは、危険があるかもしれないから人形に触るなと言われている。昔の俺なら妄想だと決めつけて一笑に付していたところだ。


「これは恐ろしい念がこもっておりますな」


 僧は人形の前で読経を始める。たっぷり十五分は読経を続けた後、取り出した白布で人形に目隠しをすると、お札が大量に張られた木箱に納めていく。木箱をさらにトランクケースに入れ鍵をかけて終了だ。


「思ったより厳重なんだな……」


「こういう人形は祟りますからな」


「引き取ってもらえて助かりました。少ないですが供養に充ててください」


 雪さんがそれなりに厚みのある封筒を手渡すと、僧は厚みから金額を勘定するようなしぐさを一瞬見せたあと懐にしまい込む。


「おこころざし、痛み入ります」


「じゃあ、よろしく頼む」


「任せておいてください。ところで久世殿」


 僧は言葉を切ると少しだけためらいをみせたが、やがてきっぱりと言う。


「久世殿、妖どもは人のように見えても、人とは相容れぬ存在ですぞ。そのようなモノに肩入れしたところでロクな事にはなりません。早めに縁を切ることです」


「なるほどな、覚えておく事にしよう」


 恐らく霞たちの事をいっているのだろう。どういうつもりか知らないが大きなお世話というのもだ。事を荒立てるつもりもないので、一応は聞いておいて追い出すように僧を送り出した。


「さっきの坊主はいったい何様のつもりだい。アタシたちが小太郎になんかするわけがないだろう」


「わたしは小太郎と一蓮托生なんだけどねえ……」


「そうですよ。小太郎様にナニかされる事はあっても、私たちが小太郎様を害することなんてありませんよ」


 雪さんの発言が少しひっかかるところがあったが、俺はうなずいてみせる。もし、万が一何か害意があったのならいくらでもそのチャンスはあったのだから。


「分かってるよ。みんな信用してるからな」


 それから二日ほど遅れて住職からの荷物が届いた。鎌倉時代から続いているだけのことはあってかなりの量の古文書が箱に納められている。


 数こそ多いものの古文書は年代ごとによく整理されていて、調べ始めてからものの十分ほどで霞がそれを見つけた。


「小太郎あったよ。資源調査の名目で何日か寺に泊まったみたいだねえ」


「どれどれ、襲撃前に引き払ったみたいだねえ。寺には帰るって言ってたようだね」


「さすがに雪女を引き連れて戻るわけには行かないでしょうしね」


 内容を聞く限りそれで間違いないようだ。しかし、襲撃前の足取りだけで、襲撃のあとどうなったのかという手掛かりは見つからない。不審な死体が見つかったなどと言う記述も見つからなかったので、集落の近くで何かがあったわけではなさそうだ。


 確か計画では雪女を連れて港町へと向かう事になっていた。これ以上調べるためには、ルートを予測して記録が残って居そうな場所を、小まめにつぶしていくしかないようだ。


「それにしても、こんなに早く見つかるなんてな。みんなが古文書読めて本当によかった」


「小太郎様、そんなに褒められてはこしょばゆいです。古書こしょだけに」


 久しぶりの雪女ジョーク、自信があったのか微妙なしたり顔を見せているのが痛々しい。


「雪、あんたどうしちまったんだい?!」


「雪ちゃん……、ドンマイだよ……」

次回はちょっと話が一気に動きます。

8/7更新予定


少し先で海回をやりたいのですが、夏が終わるまでに間に合うのか?!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓新作です↓
人類最強の暗殺者と史上最弱の勇者
今までの作品とは雰囲気が違いますが、楽しんでいただければなあと思います。



小説家になろう 勝手にランキング script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ