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第54話 雪女に会える宿

 予定通り俺たちは雪女に会える宿へとやってきていた。宣材写真を撮ってくれる女性カメラマンとは明日合流する予定なので、今日は一日のんびりできる。


 レンタカーが集落に入ったところで俺は思わず声をあげる。


「見違えたな。廃墟があったのが嘘みたいだ」


「話はきいてたけどさ、一体どこに廃墟があったんだい?」


 不格好な廃墟は跡形もなく消え失せていて、自然あふれる小さな里にしか見えない。廃墟のあった場所には、一棟一棟が別の建物に見えるようにデザインされた古民家風の建物が並んでいる。初めて訪れた都さんが分からないのも無理がない。


「都ちゃん。これだよ」


 後部座席で霞は都さんにタブレットで、初めてここに来た時に撮った写真を見せているらしい。ルームミラーのに映る都さんは眉根を寄せて「こりゃあ景色が台無しだねえ」とつぶやいている。


「ありがとうございます。これもすべて小太郎様のおかげです」


「金儲けのビジネスだからな、お礼を言われるような事じゃないさ」


「それでも、です。里のみんなも小太郎様には感謝してます」


 雪さんの言葉が心から嬉しい。確かに何とかしたいという気持ちもあったが、やはりビジネスであることには変わりがない。ウィンウィンの関係を築くことができたのは本当に良かった。


 集落に入るとすぐに手を振る住人にレンタカーを呼び止められる。「ちょっと待っててくれと」と言って畑へと向かう、しばらくすると両手いっぱいに、真っ赤に熟したトマトを持って戻ってきた。


「これ食ってけれ。あんたらが作ってくれた仕事のお陰で、若いもんも戻ってきてるんだ」


「ありがたく食べさせてもらうよ」


 それから宿に到着するまでの間にも、同じような事が何度も繰り返される。あっというまに霞たちの膝の上には、野菜の山が出来上がっていた。


「さすがにここまで歓迎されると、逆に居心地が悪いな……」


「アタシなんて何もしてないのに、お婆さんから拝まれてるからね……」


 俺以上に居心地が悪そうにしている都さんの姿が、なんだか愉快に思えて笑ってしまう。


「これで当分野菜の心配はいらないね。今夜はこれを使って……」


「前に霞さんと来た時以上の量ですね……」


 霞は八百屋でもなかなか手に入らない完熟野菜に満足なようで、料理のメニューをどうするか考えている。そういえば前に霞と雪さんの二人でここへ行った時も、山ほど野菜を持って帰ってきたっけ。


 荷物をおろし宿の中へ入る。外観は古民家だが中は新築なので非常に綺麗だ。空調も完備されているし、テレビをはじめとして余分なものは無い。その分リラックスできる空間になっている。


「へえ、なかなかいいじゃないかい」


「落ち着きますよね」


「わたしはやることが無くて、むずむずしてくるよ……」


「霞は現代社会に毒され過ぎだな。そういう俺も同じなんだがな」


 霞の言う通り携帯回線もないネットもないテレビすら置いていない事で、落ち着きのなさを感じるが、そういった人が休むための場所なんだからこれで正解だ。


「どうする? のんびり過ごすか?」


「小太郎、せっかく水着を買ったんだし川へ行こうよ」


 霞の提案に、雪さんも都さんも賛成したことで川へ行くことになった。俺たちは水着に着替えて川へと降りていく。


「ひゃああ、綺麗な水が流れてるねえ」


「底まできれいに見えてるじゃないかい」


「このあたりの水は本当に綺麗ですからね。多分飲んでも大丈夫ですよ」


 水の透明度に驚く霞と都さんに、少し得意げな雪さんが答える。


「更衣室はまだ完成してないんだな」


 建築途中の現場を見ながらつぶやく。ここは川の自然を活かした遊び場になっていて、子供でも安心して水遊びできる深さに整備されている遊泳区域と、渓流魚を釣ることのできる区域がある。


「小太郎様も早くきてください!」


「ちょっと冷たいねえ」


 三人は既に水の中に入って遊ぶ気満々のようだが、俺はちょっと釣りの方に興味があった。更衣室の資材の脇に、貸し出し用にする予定の釣り竿が積んであるのを見つけたのだ。


「いや、俺はちょっと釣りを……」


「小太郎、早くおいでよ」


 霞がパシャパシャと水をかけてくる。「そうです。早く来てください」と雪さんも加わってパシャパシャし始める。


「分かったから、上着を脱ぐのを待ってくれ」


「じれったいねえ。濡れてもいいじゃないかい」


 都さんは遠慮なく水をたたく。鬼の力で弾かれた水に俺は、パーカーを脱ぐ暇もなく頭からびしょ濡れにされてしまう。


「やりやがったな!」


 俺は脱ぎ掛けた上着もそのままに川へ飛び込み都さんに水をかける。そのあとは誰彼だれかれかまわず水を掛け合う。俺たちの他に人がいないせいか、童心に戻って思いっきり楽しむことができた。結局、時間を忘れてたっぷり夕方まで遊んでしまったのだった。


新キャラ出すかどうかで悩みます。

モフモフ成分が足りない気がするので(フランソワはノーカン!)

狼娘を出そうかなと考えているんですけど


ワンコ系女子ってどうなんでしょうか

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人類最強の暗殺者と史上最弱の勇者
今までの作品とは雰囲気が違いますが、楽しんでいただければなあと思います。



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