第51話 没落
今日は短めです
その後、ひと月足らずほどの間に鳳来の家からは、何度も骨董品が売りに出された。それらすべてを買い取ったわけだが、古文書関係は手元にあるダンボールひと箱分のみだ。まだ精査できていないが、何か手掛かりが見つかることに期待したい。
他に出てきたものといえば……。俺はちらりと部屋の片隅に置かれた日本人形に目をやる。
「あの人形……。しょーもないよな……」
「変化といっても、髪が伸びるだけですしね……」
「せめて喋ったり、踊ったりしてくれりゃあねえ」
「小太郎、この子はやればできる子だよ。今後に期待だよ」
確かに髪が伸びる日本人形というと、怪談の定番なのかもしれない。だが、座敷わらし、雪女、鬼などを日常的にみているせいか、あまりにもインパクトが足りないのだ。捨てるわけにもいかず、どのように処置したものか。
「どうすればいいんだろうな」
「そうですね、術者の方にお願いするのが一番いいのでしょうか?」
「押し付けられても術者も困るんじゃないのかい?」
「あ! 小太郎、今日もまたやってるよ」
霞の声でつけっぱなしになっていたテレビの方を見ると、ワイドショーでちょうど鳳来の話題をしていた。
木塚の記事が出でから、連日のように特集されている。県議会議員にまで逮捕者がでていて、国会議員に手が伸びるのも間近かという事態になっていて、まだまだ報道熱がさめる事はなさそうだ。ただ、鳳来本人は直接的に関わらないように気を使っていたようで、証拠が何もないため側近ばかりが逮捕されている。
「あの屋敷も売りに出されたんですね」
「なかなか良い鯉が揃ってたのに、それも売られちまったみたいだねえ」
画面に映る取材陣が、鳳来からコメントを取ろうと押しかけているのは、古びた今にも崩れそうなボロアパートだ。俺たちが忍び込んだあの屋敷まで手放したと。そうなると、あの屋敷には何も残っていないと考えてよいだろう。
「やっぱり座敷わらしは幸運の高利貸だな……」
「霞さん、雪女の分もお願いします!」
「全然嬉しくない言われ方だけど、まかせといて」
「こりゃあ愉快だねえ」
俺たちの会社の記事の方はというと、高橋さんの言っていた通りスキャンダルというよりは、宣伝の効果ばかりが目立っている状態だ。
テーブルの上に置かれている最新の週刊誌の表紙には『投機ではなく投資! 合同会社モノノケ、脅威の資産運用法とは』などという記事が載っている。好意的な記事なのは間違いないし悪い気はしないのだが、ネット上で投資の神様という恥ずかしい二つ名がついてしまっているのには閉口する。久世小太郎という名前が出ていないのがせめてもの救いだ。
おかげで、雪女米などを販売しているサイトの方もかなり注目されていて、自分たちの町の特産品も扱ってほしいといった問い合わせが増えている状態だ。全国各地にまだまだ知られていない美味しい特産品があって、それが宣伝力の無さゆえに埋もれているのは間違いない。
「オフィスの方にもう少し人が必要だな」
「小太郎、また大輔さんに紹介してもらうの?」
「いや……、心当たりはあるんだが……」
最適な人材に心当たりはある。前にいたブラック企業で一緒に働いていた後輩で、こういった仕事には最適な知識とスキルを持っている。ただ、見捨てて一人で辞めたみたいで連絡を取ることが少し気が引ける。
「なんだい、そんなことかい。いい話があるってのに言わない方が酷ってもんさね」
「そうですよ小太郎様。すぐに連絡してあげてください」
都さんと雪さんがそう言ってくれたことで、思い直してすぐにメッセージを送る。すぐに返事があったが、やはり激務が続いているらしく、週末に時間を作るのがやっとだという。この感触なら移籍してもらうのも難しくないだろう。
後輩と会って引き抜きの話をまとめた翌日、鳳来の中心事業であるゼネコンが吸収合併されることが発表された。
鳳来さんへのオシオキはまだまだ続く……
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これからも、まだまだ頑張りたいとおもいます。
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