第50話 鬼に金棒
ちょっと前話の最後のセリフを修正しました。
「じゃあ昼飯でも食べて、どこかで買い物でもして帰るか」
を
「部屋に荷物を置いて、バンを返すついでに食事でもしようか」
に変更しています。内容は変わらないので、読み直す必要はないと思います。
俺たちはレンタカーを返した後、ファミレスで食事が来るのを待っていた。
「都さんが骨とう品に詳しいとは思ってなかったよ」
「いや、あたしが分かるのは刃物だけだよ」
「それでも充分すごいよ」
俺としては都さんの目利きを褒めたつもりだったのだが、都さんは浮かない顔を見せる。
「鬼に金棒ってやつさね。もうちょっと女らしいものだったら良かったんだけどねえ」
「どういう事だ?」
「鬼には生まれつき何か一つ得意なものがあるのさ。金剛丸なら鍛冶だし、父さんは弓、そしてあたしは刃物」
初めて聞く話だ。鬼に金棒といわれると、普通ただでさえ強い鬼に金棒を持たせて強さを増すという意味だとしか思わない。
「生まれつき得意なものって、どの程度得意なものなんだ?」
「そうさねえ。あたしの刃物なら、五つの頃にはナマクラでも兜割くらいは出来たくらいさ」
それはもう得意というレベルを超えている気がする。言われてみれば鍛冶やら鉄生成やらと、鬼から技術を教えてもらう伝承というのが結構あった記憶がある。鍛冶や冶金の得意な鬼が居たのなら納得できる話だ。
「なるほどな。それで刃物なら分かるってことか」
「いいものだってわかるだけさね。料理とか裁縫とかだったりしたら、あたしもコタローを喜ばせられたんだろうけどねえ」
いつもの姉御肌の都さんとは違って、自分の能力に悩む姿というのはなんだか新鮮だ。
「別に得意じゃないってだけで、料理やら裁縫やらだって練習すればできるようになるんじゃないのか?」
「そりゃあ出来るようになるだろうけど、得意な鬼に比べたら足元にも及ばないからねえ……」
確かに、どんなに頑張っても勝てないと分かっているのはつらいよな。
「もう鬼達だけの世界に居るわけじゃないだから、やるだけやってみたらどうだ? それに料理やら裁縫やらって、別に技術だけを競うものじゃないだろう」
俺の言葉を聞いた後、都さんは少し考えた後吹っ切れたような顔をして言う。
「確かにコタローの言う通りだ。あたしもいっちょやってやろうじゃないか」
会計を終えて、店を出たところで都さんが「買い物に付き合っておくれよ」と言う。今日は特に他に用事もないし断る理由もない。都さんの買い物に付き合う事にするのだった。
「ちょっとまて。ここは男が入っちゃダメだろう!!」
都さんが俺を連れ込もうとしたのはランジェリーショップだった。
「なに初心な事を言ってんだい、見てごらん男連れで選ぶのは普通だよ」
都さんの言う通り店内には、男連れでランジェリーを選んでいる女性も多い。が、あれはどう見てもカップルや夫婦だろう。俺と都さんはそんな関係ではない。
「そりゃあカップルや夫婦だからだろう」
「そんなこと言って、さては経験が無くて怖気づいてるのかい?」
からかうように言う都さんに、つい反射的に「そんなことはない」と答えてしまう。結果として一緒に店内に入ることになるのだった。
「お客様くらいのサイズですと、なかなか合うサイズがなかったり、あってもデザインが微妙だったり大変ですよね」
「そうだねえ」
店員さんとの会話を聞きながら、確かにそうかもしれないと思う。一般的なサイズから外れていると、選択肢が狭くなるのは当然だろう。少し考えれば当たり前の事でも意外と見落としている事は多い。ビジネスチャンスというのはこういうところに転がっているものだ。
「でも、当店なら大丈夫。日本一といっても過言ではないラインナップですから」
「へえ、楽しみだねえ」
「彼氏さんの好みに合うものがあればいいんですけど」
ビジネスの話で現実逃避を試みていたというのに、店員さんの一言で急に現実へと引き戻される。
案内された先には色とりどりのランジェリーが展示されていた。サイズがサイズだけに俺たち以外に客が居ないのがせめてもの救いだ。一人で買いに来ている女性が居たりしたら気まずくて仕方ないだろう。
「コタローはどれが似合うと思う?」
「えっ……」
急に話を振られて焦った俺は、目についた黒いランジェリーを適当に指さす。
「あれなんかどうかな」
「へえ、あんなのが好みなのかい」
「彼氏さん攻めてますねえ」
都さんと店員さんの反応に俺が選んだものを二度見する。それはヨーロッパのブランドのもので、全面レースになっているブラジャーは透け透けだし、ショーツだって似たようなものでほとんど紐と言っていいようなものだ。
「あたしもこういうのは嫌いじゃいよ。コタロー気が合うねえ。あと二、三着選んどくれよ」
「全部俺に選ばせるつもりかよ!」
「そりゃそうさね。コタローが喜ばないものを着ても、しかたがないからねえ」
やけになった俺は今度は良く観察しながら、ランジェリーを選んでいく。確かに露出の少ない普通の下着のようなものもあるのだが、都さんのイメージに合わないように思う。よくよく考えた上で残りのランジェリーを選び終えた。
「コタロー、いい趣味してるねえ」
「彼氏さん上級者ですね……」
都さんは俺が選んだものに満足しているようだが、店員さんがちょっと引き気味に見えるのはきっと気のせいに違いない。
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