第49話 古物商
全員の視線が俺の握りしめる数本の割り箸に集中している。まず最初に雪さん、都さん、金剛丸がそれぞれ選んで、最後に残ったのが霞のとなる。霞には残り物を選んでもらわないと必ず当たりを引かれてしまう、なんと最後に選んでいても勝率は五割を超えているのだ。
「ふはは、ワシが当たりじゃな」
先端が赤く塗られた割りばしを両手で掲げる金剛丸。小鬼姿だと割りばしが大きく見える。当たりを引きたかったらしい他の三人は、目に見えて落胆する。
くじ引きで何をしているのかというとチーム分けである。例の記事から有名になった雪女に会える宿への出張予定と、鳳来の家から売りに出された荷物の引き取りとが重なってしまったのだ。
「わたしは電波が届かない所は嫌だよ……」
「里へ行くのは決まってるので、小太郎様と行きたかったです」
もう明日の事だというのに、みんなそれぞれに思惑があるようで話はまとまらない。結果として、くじで当たりを引いた人が全てを決めるという事になったのだ。
「ふむ、では里へは霞殿と雪殿、それにワシが護衛で行こうかのう」
鳳来の部下たちは既に我先にと逃げ出しているし、俺たちを襲撃する余裕はないと思うが、それをやらないと鳳来に復活の目がない事も事実だ。警戒しておいて損はない、金剛丸がついていけばいざというときにも安心だろう。
「ええっ……。また電波無しかあ……」
「小太郎様、残念です」
「あたしはコタローと留守番ってことだね。力仕事はまかせとくれ」
確かにこのチーム分けが一番のように思う。里へ雪さん一人だけ行かせるわけにもいかないし、初顔の都さんを里へやるのも何か違う。同様に初顔合わせの古美術商に俺が行かないのもないだろう。金剛丸の選択は最善のものだと思う。
翌日の早朝、駅のホームで霞と雪さんを見送る。ここまで代わりに持ってきた二人の荷物を手渡す。
「はあ、仕方がないから行ってくるよ」
「小太郎様、都さん、それでは行ってきます」
「留守はまかしといておくれ」
雪さんは赤いセルフレームの眼鏡をくいっと持ち上げながら言う。都さんは何事もなかったかのように対応するが、俺は気になって仕方がない。
「なあ、突っ込んでいいか。その眼鏡は一体?」
「えっと、霞さんに頂きました! 小太郎様の代理なので秘書みたいに見えるかなあと。それと――」
「それと?」
確かに真面目そうな雰囲気のある雪さんには似合ってるし、できる秘書って風に見えるが、単なるコスプレなんじゃないのか。
「私の瞳、冷たい感じがして好きではないのでこれで目立たないかなと」
「そうか? 俺は雪さんの青い瞳、綺麗で好ましいと思うけどな」
「そ、それならなおさら他の人には見せられません」
霞と都さんも「よく似合ってるよ」と言ってるし、住職の他にも勘のいい住人がいるかもしれない。これ以上突っ込むのは野暮というものだろう。
「じゃあ、金剛丸二人を頼んだぞ」
「小太郎殿心配はいらん、ワシに任せておけ」
見送りを済ませたあと、営業車によく使われるようなバンをレンタルして、古物商の店へと向かう。
「どんなものが出てくるんだろうな」
「あたしの知ってる限りじゃ、そんなに珍しいもんはなかったように思うけどねえ」
俺もそこまで期待しているわけじゃない。今日やるべきことは、鳳来の家から出たものは全て買い取るという事を、古物商に証明して見せる事だ。お目当てのものは家を手放す位にならないと出てこないだろう。
「いらっしゃいませ。久世様ですね」
もみ手をしながら案内してくれる店主について、業務用の大型エレベータに乗って三階にあがる。三階は倉庫になっていて所狭しと骨とう品を収めた棚が並んでいた。
「こちらの一角がそうですね」
「結構な量だな」
床に敷かれた白い布の上に、ところ狭しと物が置かれている。絵画をはじめ甲冑や刀剣類といった美術品ばかりで、お目当てだった古文書の類は見当たらない。
「これを全て買い取って頂けるという事で間違いありませんか?」
「ああ、問題ない。また出てきたらお願いするよ」
「では、金額はこちらになります。まとめ買いですので少し勉強させていただきました」
俺はその場でスマートフォンからネット経由で示された代金を振り込む。古物商たちも総出でバンに荷物を積み込んでいく。少し不安だったが何とか荷物をすべて積み込む事が出来た。どれだけ儲かったのかは知らないが店主のほくほく顔を見る限り、相当儲かっているのだろう。この様子なら次もすぐに連絡をくれるだろう。
美術品用のレンタル倉庫に荷物を運び入れながら確認していく。大抵はただの美術品だった。俺にはこういうものを集める趣味はないし、暫く保管した後どこかに売りに出すことになる。結構な損をするはずだが、それも必要な投資というものだ。
「コタローみとくれよ。これはなかなかの業物だよ」
都さんが一振りの刀を光に透かすように見つめながら言う。それは素人眼にも凄そうだなと感じられるのだから、確かに業物なのだろう。
「へえ、気にったのなら、都さんが持ってればいいんじゃないのか?」
「いいのかい? 嬉しい事を言ってくれるねえ」
都さんはうきうきとした足取りで、飾り袋に納めた刀をバンに戻す。あれだけ嬉しそうにしてくれるなら正解だろう。
俺たちは仕分けを続けていくが、他に掘り出し物は無く作業は終わった。
「終わりだな」
「あっという間に終わっちまったねえ」
「部屋に荷物を置いて、バンを返すついでに食事でもしようか」
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