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第48話 封筒

 霞の作っている料理が出来上がるのを待つ。雪さんは時々手伝っているが、霞の料理の腕が上がりすぎたせいで、手伝いたくても手を出せない事も多いらしい。それに比べて都さんは、完全に食べるの専門で料理は一切できないようだ。本人曰く「あたしに料理できるのは、悪党くらいなもんさ」という事らしい。


「霞さん、今日は何を作ってるんでしょうね?」


「さあな、最近はもう名前も知らない料理が多くて、まともに予想もできないからなあ」


「あの子の料理はどれも絶品だからねえ。あたしゃなんでもござれだよ」


 今日のメニューについて、いろいろと予想を話していると呼び鈴がなった。


「俺が出てくるよ」


 どうせいつもの通販の荷物だろうと出たのだが、来ていたのはバイク便だった。荷物は封筒が一つきり。不思議に思いながらテーブルに戻る。


「封筒ですか? 珍しいですね」


「だな。何が入っているんだか」


 差出人の欄には木塚の名前が書かれていた。開封してみると中から出てきたのは、木塚きづかからのメッセージと、写真週刊誌の記事のゲラ刷りだった。


 内容は鳳来に関する政治家がらみのスキャンダルだ。事前にリークされた開発予定地を、地上げし自治体に転売したという疑惑。他にもハニートラップや賄賂を使って、政治家を自由に操っては荒稼ぎしていたという内容だ。


 この記事が出れば相当なダメージになるだろう。それなのにタイトルには第一報とかかれていて、記事は反社会的勢力との関わりについての次回予告で締められている。


「うわ……。想像以上に色々やってたみたいですね……」


「だなあ。出来れば刑務所みたいな楽な所へは行ってほしくないんだが……」


「あたしゃ続きが気になるよ。早くめくってみなよ」


 めくって二つ目の記事のタイトルが目に入った瞬間思わず声が出る。


「なんじゃこりゃあああ!!」


「小太郎様の記事ですね!」


「コタローの写真はどこだい?」


 見開き二ページの短い記事で、オフィスに入る高橋さんの写真が掲載されている。記事の内容は創業間もないのに驚異の利益を上げている、将来有望な会社という事で一応褒めているように見える。しかし週刊誌らしく、何かからくりがあるのではないかという疑惑がしっかりと付け加えられている。


「どうやってこんなに詳しく調べ上げたんだ」


 俺はスマートフォンを取り出して、木塚に電話をかける。三、四コール程まったところで回線はつながった。


『思ったより早くかけてきたわね』


「この記事はどういうことだ」


『どういうことも何も、あなたたちにも興味があるって言ったでしょ?』


「確かにそう言っていたが、まさか記事にされるとは思わないだろ」


 木塚は電話の向こう側で、いたずらが成功した子供の用にクスクスと楽しそうに笑っている。


「この記事の掲載を取りやめてもらう訳にはいかないのか?」 


『無理よ。それに悪い事が書いてる訳じゃないんだし、無料で会社の広告が出来たと思って喜んでおいて』


 それだけ言うと、もう用はないとばかりに一方的に電話を切られてしまう。


「小太郎様、どうでした?」


「記事を取り下げるつもりはないらしい。宣伝になるんだからいいだろってさ」


「あたしゃコタローの写真が無いのが気に入らないね」


 都さんの言葉で思い出して、記事をスマホで撮影して高橋さんにメールで送ると電話をかける。忙しい高橋さんだが運よくすぐに出てくれた。


『なんですか? このメールは』


「近いうちにそれが写真週刊誌に載るらしいんだが……」


『会社の宣伝になるのは良いと思いますが、私の写真は困りますよ』


「それで連絡を取ったんだが……」


 結局のところ、高橋さんが最高執行責任者になるという事で話はまとまった。やってもらう仕事は今までと変わらないのだが、役職としてはっきりさせただけという事になる。


『では、もし取材が来たらCOOとして対応させてもらいますね。ついでに雪女に会える宿の宣伝をしておきますよ』


 高橋さんならマスコミ対応も上手くやってくれるだろう。ほっと胸をなでおろす。


 俺としては、そのうち独立するだろうと思っていた高橋さんが会社に残ってくれる訳だから、願ったり叶ったりといったところだ。もしかしたら、これも霞が運んできた幸運の一種なのだろうか。


「なにを騒いでるの? 晩御飯できたよ。雪ちゃん都ちゃん運ぶのを手伝って」


 三人がかりでテーブルの上に料理がどんどん並べられていく。やはり実物を目の前にしても俺に分かるのは、三角形のデカイ蓋がついているのがタジン鍋だという事くらいだ。


「見たとことない料理が並んでるな……」


「モロッコ料理だよ! ハリラにブリワット、チキンのクスクスにケフタだよ」


 うん、どれも聞いたことのない料理だ。ハリラというのは豆とトマトの具だくさんのスープで、ジンジャーペッパーの風味とトマトの酸味が独特の風味を出していて非常に美味しい。


「このブリワットというのは、ちょっと春巻きっぽいですね。ひき肉とスパイスの風味がとっても美味しいです!」


 雪さんの言う通り、この春巻きにはチーズも入っていて美味しい。俺は酒は飲まないがいわゆるお酒の進む料理というやつだ。


「こっちのクスクスってのは米かと思ってたら違うのかい」


「クスクスはパスタみたいなものだよ。初めて作ってみたけど美味しいね。幾らでも食べられるよ」


 霞はすごい勢いでクスクスを食べている。スパイスがよく効いた鶏肉がたっぷりと掛けてあり、どこかカレーのような雰囲気もある。


「本当に、どれも美味しいですね」


「だねえ。幾らでも食えちまうよ」


「わたしが作ったんだから当然だよ。どんどん食べて」


「こんなうまい料理を毎日食えるなんて、俺は本当に幸せ者だよ」


 鳳来の事や、会社が写真週刊誌にすっぱ抜かれた事など、気になることは色々とあるが、今は霞の料理をたっぷりと味わう事に集中するとしよう。

応援してくださったみなさんのおかげで、2万ポイント達成できました!

まだまだ頑張りたいとおもいます。


もしよろしければ、まだの方はブクマや評価などで応援してください。

よろしくお願いします!

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人類最強の暗殺者と史上最弱の勇者
今までの作品とは雰囲気が違いますが、楽しんでいただければなあと思います。



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