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第45話 目覚め

 左肩が痛む。意識がはっきりしてくるのと同時に記憶がよみがえってくる。確か銃でうたれたんだっけ。目を開けると霞と雪さんが心配そうにこちらを見ていた。


「小太郎大丈夫?」


「小太郎様、大丈夫ですか?」


 俺が目覚めた事に気づいたのか、都さんが小走りでやってきた。都さんは俺の顔をみて安堵したような表情を見せて言う。


「死んじまったのかと思ったよ。心配させるんじゃないよ」


 都さんの肩の上には金剛丸が居て、難しい表情で腕組みをしている。


「顔色が随分と良くなったな。もはや心配することもあるまい」


 みんなが口々に心配していたと言う。随分と心配をかけてしまったようだ。


「みんな、心配させてすまなかったな。大したことは無いからもう大丈夫だ」


「大丈夫じゃないよ。小太郎二日も起きなかったんだよ」


「二日も経ったのか、どうりで確かに腹が減ってるわけだ」


 俺の言葉に合わせるように、腹からぐうという間抜けな音が響く。霞は笑いながら「なにか消化の良いものを作ってくるよ」といって席を立つ。


「大輔さんが、知り合いのお医者さんを呼んでくれたんですよ」


 医者なら銃で撃たれた怪我だとすぐにわかったはずだ。警察などの問題はなかったのだろうか。


「大丈夫ですよ。闇医者さんで口は堅いそうですから」


「そんなに顔にでてたか?」


「いえ、大輔さんに医者の話をするときに言えといわれました。小太郎様は絶対に心配するからと」


「そこまでお見通しか……」


 俺は大輔さんの手回しの良さに舌を巻く。俺も負けてはいられないと言うのに二日のロスは痛い。木塚の資料を取ろうと立ち上がろうとするが、バランスを崩して倒れそうになる。


「おっと危ない」


 都さんが俺をがっしりと受け止めてくれる。見た目は普通の女性にしか見えない鬼は、俺を受け止めてもびくともしない力強さを感じる。都さんに支えてもらいながら、ベッドサイドに腰掛けるように座る。


「トイレ……、でしょうか……? それでしたら私が……」


 どこからともなく取り出した樹脂製の尿瓶しびんを片手に、薄くほほを染めた雪さんが遠慮がちに言う。


「それならあたしの方がいいだろう。まかせとくれ」


 言うや都さんはあっというまに尿瓶を奪い取る。雪さんは取り返そうと必死になっているが、力で鬼にかなう訳もない。もはや雪さんに逆転の目はないだろう。


「私の方が慣れてるんです。返してください」


 雪さんが言う慣れてるの意味がわからない。まるで普段からやってるようではないか、誤解を招くような発言はしないでほしい。


「いや、どうして肩を怪我しただけでトイレに行けなくなるんだ……。そもそも俺はトイレに行きたいわけじゃない」


 ふらつかないように注意しながら立ち上がる。まだ少し足元がおぼつかない感じがするが、歩けないほどじゃない。ゆっくりとリビングのように使っているスペースにあるテーブルに向かう。


 テーブルにたどり着くころにはいつもの感覚を取り戻して、普通に歩けるようになっていた。左腕は痛くて使えないので、右手で木塚の資料を広げる。確かどこかに出入りの業者がまとめてある資料があったはずだ。


「小太郎、おじやを作ったよ」


「ありがとう。お腹ペコペコだよ」


 霞が作ってくれた雑炊はかつおの出汁を効かせたもので、ほうれん草としらすの具に玉子というものだ。薄っすらとついた味噌と醤油の味が食欲を引き出してくれる。そのあまりの美味さに、霞が止めるのも聞かず、俺は土鍋で作った分すべて平らげてしまった。


「美味かった! やっぱ霞の料理は美味いな」


「でしょう。美味しいごはんは日々の活力だからねえ。飲み物を淹れてくるよ」


 霞がキッチンへと戻ったのを見送って、木塚の資料に目を通していると、雪さんが尿瓶をもってやってきた。


「まだそれやってたのか……。なんで自由に歩き回れるのに使う必要があるんだ」


「そんな……。せっかく都さんから勝ち取ったというのに……」


「小太郎、それ使わないの? こんなこともあろうかとタマゾンで買っておいたのに」


 言いながら霞は四人分のお茶を淹れて戻ってくる。どうして男性用の尿瓶が部屋にあるだろうと思っていたが、霞が買ったものだったらしい。


「こんなこともあろうかとって、尿瓶が必要になるシチュエーションってどんなだよ」 


「んー? なんとなく必要になるかなって」


 この様子では、ほかの通販アイテムもどんなガラクタなのか、想像するのも恐ろしい。魔法少女ものを一生懸命みていた時期もあったから、きっと変身ステッキなんかのグッズもあるのに違いない。


「とにかく、尿瓶は要らん!」


 都さんも入れて四人でお茶を飲みながら、木塚の資料を確認する。目的の出入り業者リストにあった番号へと電話をかける。


「鳳来さんの屋敷でもし何か買取があれば、出てきたものを全部私に売ってはいただけないでしょうか? もちろん正規の価格で買わせていただきますので」


 同じような電話を続けてかけていく。出入りの古物商は全部で三人いたが、右から左で利益が出るのだから、全員が即答でオーケーしてくれた。


「あの人の家にあるもので、なにか欲しいものでもあるんですか?」


「小太郎はきっと、役に立つ妖怪グッズが欲しいんだよ」


「まあな、妖刀とか持ってるとかっこいいし」


 霞が良く分からない推理を語ってくれたので、俺はそれにのっておく。本当は鳳来の家にあるであろう古文書の類が狙いだ。残っていない可能性も高いが、もしかしたら雪さんの里に関係する書類が出てくるかもしれない。


 座敷わらしの反動と、うちでのこづちを失ったことで落ちぶれていく鳳来は、これから先金目のものをどんどん処分していくことになる。それを買い集めて調査することは無駄ではないはずだ。

応援してくださったみなさんのおかげで、2万ポイント達成できました!

まだまだ頑張りたいとおもいます。


もしよろしければ、まだの方はブクマや評価などで応援してください。

よろしくお願いします!

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人類最強の暗殺者と史上最弱の勇者
今までの作品とは雰囲気が違いますが、楽しんでいただければなあと思います。



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