第44話 決着
秀胤の近くへ駆け寄った源蔵は、俺たちの方を見ながら得意げに語り始める。
「お前らバカみたいに、おいらの事を信じてたからな。楽な仕事だったよ。鳳来様を狙ってる奴がいるときいて、もしかしたらと待ってた甲斐があったってもんだ」
「じゃあ源蔵は盗人神じゃないのか?」
「当たり前だろ、俺のどこがあんな女に似てるっていうんだよ」
考えてみれば思い当たる節は色々とある。酒は確かに好きだったが、大好物だという枇杷は受け取ったが食べるところは見ていない。フランソワ鈴木の一件のときも源蔵には普通の犬にしか見えていなかった。神として祀られるくらいの大妖なら、楽に見えるというほうが自然だ、あれは源蔵の力が弱いことの証明か。
「小太郎殿、うちでのこづちはあやつがもっておる。懐に入れているな」
耳元で金剛丸が囁く。
「なあ鳳来様、約束の褒美をわすれないでくれよ」
「そうだったのう。褒美をやらんとな」
秀胤は側にいる源蔵に銃を向けて引き金を引く。パンという乾いた音が二度響き、源蔵の体から血が噴き出す。
源蔵が苦痛に呻きながらのたうち回っているのを、秀胤はつまらなさそうに見下ろしながら言う。
「なんじゃ、まだ足りんのか。術を施した高価な弾丸を二発もやったというのに欲張りだのう」
秀胤はさらに数発、源蔵に弾丸を撃ち込む。源蔵は既に息絶えたのか、ピクリとも動かなくなる。
満足げな表情をみせると秀胤は、机の上に銃を置くと、顔に飛んだ源蔵の返り血をふき取り始める。行動を起こすなら今しかない。
「霞、雪さん! 姿を消して逃げろ」
叫んで、秀胤に向かって飛び掛かる。警備の連中が俺に銃を向けるが構わず突き進む。距離さえ詰めてしまえば、誤射が怖くて撃てなくなるはずだ。
秀胤は机の上に置いた銃を取ろうと手を伸ばすが、置いたはずの銃が見つからずぎょっとした表情を見せる。しかし、俺の目には銃の上で親指を立てているリモコン隠しの姿が、はっきりと見える。
「うおおおおおっ!」
警備の一人が持つ拳銃が火を噴く。左肩に目の前が真っ赤になるような痛みが走るが止まるわけにはいかない。そのままの勢いで秀胤に体ごとぶつかるように組み付く。
「早く何とかせんかっ!」
秀胤の喚き声に警備の連中が反応するのが分かるが、俺は構わず懐に手を突っ込みうちでのこづちを探す。指先が何か硬いものに触れたその時、霞の声が聞こえる。
「都さんの縄は解いたよ!」
秀胤の懐からそれを引っ張りだす。手に伝わってくる感触から小さな槌であることは間違いない。
「都さん! うちでのこづちは取り戻したぞ。警備の連中を頼む!」
「承知!」
都さんは目で追うのもやっとの、素早い動きで警備の連中と術者の意識を刈り取っていく。ものの数秒で動いているのは俺たちと秀胤だけになった。
今頃になって激しくなってきた左肩の痛みに耐えながら、よろつきながらもなんとか立ち上がる。
「小太郎様、大丈夫ですか」
「小太郎、大丈夫?」
駆け寄ってきた霞と雪さんは、俺の肩の傷を手当してくれる。肩から流れた血が指先から落ちるのを感じる。
「こやつどうする? 殺すか?」
霞の肩の上で金剛丸が物騒な事を言う。もはや隠形をといているらしく、その声は秀胤にも聞こえたようで、真っ青な顔でぶるぶると震えながら言う。
「ワシを殺すというのか! そ、そんなことが許されると思っているのか」
いつのまにか都さんは俺を庇うように秀胤との間に立っていて、手には部屋に飾られていた刀が握られている。
「小太郎さんがやりますか? それとも私が?」
都さんは俺にむかって刀の柄を差し出す。それを見て秀胤は、部屋の隅まで這うように逃げていく。
「ひいいい、助けてくれ!!」
「こんな奴、手を汚す価値もないし、殺すなんて生ぬるい。放っておけば勝手に報いを受けるだろうよ。それこそ、ここで死んだ方がましだったと思うほどのな」
俺は霞と雪さんに支えられるようにしながら、部屋の出口へと向かって歩きはじめる。
「バカめ! 死ねっ」
声に振り返ると秀胤の手には、拳銃が握られていて俺に向かって向けられている。何度か銃声が響くが、弾丸は俺には届かない。すべて都さんが刀で逸らして壁などに当たっている。
「やはり殺しておいた方がよいのではないのか?」
金剛丸が言うが、俺は「必要ない」と答える。さっきの銃弾は都さんが居なくても、きっと俺には当たらなかっただろう。霞もこづちも失ったのだ、二度と再起することもできないだろう。そんな相手のために手を汚す必要などない。
警備システムが全て停止していたおかげで、屋敷からでるのに苦労はなかった。きっと木塚が止めてくれたのだろう。
「ああそうだ、これを返しておかないとな」
「いいのかい? いや! よろしいのですか?」
俺の差し出したうちでのこづちをみて驚いたように都さんが言う。きっと最初のが彼女の素なのだろう。
「もともと都さんたちのものだろ? 俺が持ってても仕方ないからな」
「ありがとう……」
押し頂くように打ち出の小槌を受け取った都さんは、大切そうに小槌を抱きしめる。
「あとこれもだな」
ポケットから金剛丸の箱を取り出し、それも都さんに手渡す。
「知り合いなんだろ? 他の仲間もいるみたいだし、達者で暮らせよ」
「小太郎、早く帰って傷の手当をしないと。顔真っ青だよ」
「もう痛くないし大丈夫だろ」
霞が心配そうにいうが、弾は貫通しているみたいだし、もう痛みもあまり感じないから大丈夫なんじゃないだろうか。
「痛くないとかかなり危険な状態かと」
雪さんまでそんなことを言い出す。心配することはないと言いいかけたところで、ふっと気が遠くなって俺は意識を手放してしまった。
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