第42話 意外な人物
なんと初レビューをいただきました。
国語の教科書作品が異能になって、僕の左手に宿ったら ~そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな~
という作品を書いておられる方です。
ありがとうございます。
たっぷりと横幅のある通路が目の前に広がっている。左右から見張る監視カメラと赤外線感知システムも厄介だが、飛び石の間に砂利を敷き詰めた通路も相当なものだ。飛び石を上手くわたらないと砂利を踏んで音を立ててしまう事になる。
俺と雪さんが緊張をほぐすために深呼吸をしている間に、姿を消した霞と源蔵はあっさりと難所を渡り切って、カメラの死角から手を振っている。二人の呑気な様子をみていると、雪さんに申し訳ない気分になる。
「雪さん、手間をかけてすまない。一人なら楽に渡れるだろうに」
「いえ、気になさらないでください。小太郎様と一緒に居られて結構楽しいんですよ」
雪さんはそのように言うが、隠れて移動することが結構な負担になっていることは分かっている。よほどお腹がすくのか、練習の後は霞も驚くほどに食事を食べていた。なにより息を合わせて二人三脚のような事をしているおかげで、相当な負担がかかっていることが手に取るようにわかる。
「ありがとう。そろそろいこうか」
「はいっ」
カメラの動きを確認しながら慎重に進む。ある程度のスピードと正確さが要求される。一歩、二歩。ここからは別のカメラの範囲に入ることになるから向きを変えて。
「あっ」
小さな声をあげた雪さんが、バランスを崩し飛び石を踏み外しそうになる。俺はぎゅっと力をいれて雪さんを抱き寄せる。おかげでなんとか雪さんは踏みとどまることができ、目立つ音を出さずにすんだ。
雪さんにちょっとした力の入れ方で意志を伝える。練習を積み重ねただけの甲斐があって、またタイミングを合わせて移動を再開することができた。
そこからは特にヒヤリとするようなところもなく、なんとか無事に霞たちの待っている場所までたどり着くことができた。
「さっきのはあぶなかったな」
「小太郎様のおかげで助かりました」
「なにかあったの? 大丈夫?」
心配そうにする霞に、俺と雪さんが説明する。ほっとしたような表情をみせた霞は
「隠れ蓑があれば楽だったろうにね」
「隠れ蓑って言うと天狗とかが持ってるっていう、姿を隠す伝説の宝か? そんなの実在しないだろ」
返事をしてみたものの、うちでのこづちは実在していて今から奪い返そうとしているのだ。隠れ蓑が実在していても全く不思議なことはないと考え直す。
「いや、あるかもしれないな。けどまあ無いものの話をしても仕方ない」
「大丈夫です! 隠れ蓑なんて無くったって私が頑張りますから」
とにかく一番の難所は無事に乗り切ることができた。警備の薄い庭の方へ回るために、屋敷の外からも確認できる大きな銀杏の木を目指して移動を再開する。
無事に庭にたどり着いた俺たちは、茂みから母屋の様子をうかがう。周囲を巡回する見張りはいるが、資料にあったとおり母屋の中には警備が配置されていないようで、しんと静まり返っている。
「ここまでくればあとは簡単だな」
「もうすぐそこだね。都ちゃんはどの部屋にいるんだろ?」
「ここからではわからんな。もう少し近くへいけば都の気配も分かるだろうが」
箱の中から金剛丸は自信がなさそうな声をだす。母屋に向かって移動を始めようとしたその時、背中に硬いものが押し当てられる。
「声を出すな。死にたくなければ、ゆっくり両手をあげてこちらを向け」
俺は背中に冷たいものを感じながら言われたとおり、刺激しないようにゆっくりと両手をあげる。なんとか隙を見つけて反撃を試みるしかないと、覚悟を決めてゆっくりと振り返る。
「見つからずにここまで入れたのは褒めてあげるけど、まだまだ甘いわね」
「木塚?! どうしてこんなところに居るんだ」
突き付けられていた拳銃らしきものはボイスレコーダで、木塚はそれをポケットにしまいながら、まるで天気の話題でもしているかのような気軽さで言う。
「取材にきまってるでしょう。昨夜、政治家が招かれてたっぷり三時間は話し込んでたから、盗聴器のデータを回収しにきたのよ」
「盗聴器って離れた所から無線で聞くものじゃないのか?」
不思議がる俺に木塚は、電波を出すタイプの盗聴器は簡単に妨害されるし、発見する事も難しくないらしく警戒している相手には役にたたないのだと解説してくれた。
「あなたたちの方こそ、なぜここに居るのかしら?」
俺は返答に詰まってしまう。まさかうちでのこづちを盗みに来ましたなんて言えるわけがない。下手な事を言って興味を持たれると面倒な事になりそうだ。かといって黙っているわけにもいかない。俺が適当な返答を考えている間に、先手を切って霞が口を開いた。
「大切なものを取り返しに来たんだよ」
「ふうん。大切なもの……、ね。どんなものか分からないけど、取り返せるといいわね」
木塚は興味がなさそうな声でそういうが、髪の間から覗くぎょろりとした目は、何かを見透かそうとしているように光っている。焦った俺は話題を変える。
「そんなことより、記事の方は進んでいるのか?」
「近いうちに掲載されるわ。オマケもあるから楽しみにしておいてね」
こんなことで誤魔化せたとは到底思えないが、木塚はこの場で追及するつもりはないらしい。俺自身にも興味があるとか言っていたし、いつかしつこく取材されるのだろう。
「オマケというのはなんだ? 工場の記事も出来たのか?」
だが木塚は返答せず、俺たちの目指す母屋ではなく、離れ家の方へと向かって歩き出す。立ち去りながら振り返りもせず言う。
「そうそう、ヘマをして私の邪魔にならないようにだけ気を付けてね」
あっという間に木塚の姿は闇に溶けるように見えなくなる。プロのジャーナリストの技に感心するが、俺たちにのんびりしている暇などない。
「じゃあ、俺たちもいくか」
みなさんのおかげで、2万ポイント達成できました!
まだまだ頑張りたいとおもいます。
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