第40話 朗報
毎日の特訓の成果か、雪さんと隠れながらの移動もそれなりに出来るようになってきた。ダンスするつもりで息を合わせて移動するのがコツだ。
「おぉっ、すごいよ小太郎。新記録だよ」
「小太郎様、目標達成ですよ!」
警備の巡回をすり抜ける都合もあって、ある程度の移動速度が求められる。目標を達成できたなら、かなりの余裕をもって行動することができるはずだ。
「あとは、鍵開けですね」
「ほんと難しんだって」
鍵開けの方が問題で、なかなか上達しないのだ。成功回数は増えているが、今のままでは解錠する前に朝になる、という笑えない結果になるのは目に見えている。
「小太郎。わたしが教えてあげようか?」
俺はなかなか上手くならないというのに、霞はゲーム感覚であっという間にマスターしてしまったのだ。いっそのこと霞が鍵開けを担当してくれればありがたいのだけど、妖怪ゆえの制約があってそうはいかないらしい。
「たのむ霞、早く覚えたいからな」
「わたしが出来ればいいんだけどねえ……」
「小太郎様なら、きっとできるようになりますから」
座敷わらしは自宅の範囲内では悪戯できるが、よその家では出来ないというのも、やはり内弁慶と言うのが正しいのだろうか。
霞がカギを開ける手元を見つめる。俺がいつもやっている事と同じにしか見えないのだが、しばらくするとカチャリと音をたてて開く。
「と、まあこんな感じだけど、わかった?」
「うん、全然わからん」
「こうだよ。こうやってこう!」
「うん、さっぱりわからん」
霞は身振り手振りを交えて必死で伝えようとしてくれるし、俺も何とか理解しようと頑張るのだがやはり理解できない。感覚的なものを伝えるのはとんでもなく難しいものだ。やはり時間をかけてゆっくりとマスターするしかないのだろう。
「金庫用としては、これでもかなり簡単な鍵なんですよね?」
「そうだけどプロの言う『ちょろいっすよー』だからなあ……」
雪さんの言う通り鍵を手配してくれた人がいうには、金庫用としてはかなり旧式で簡単な構造らしい。
裏社会でも名前が売れているだけあって、泥棒対策ではなく防火目的の金庫らしく旧型のものをそのまま使っている。もし最新型だったら俺では手も足も出なかっただろう。
「きっともうすぐ開きますよ! 小太郎様ファイトです!」
雪さんに応援されながら鍵開けの練習を続ける。霞は俺の動きをみながら隣で「こうだよっ!」とかやってくれているのを、真似するように指を使う。もう少しで開きそうな感触を得たところで失敗。振り出しにもどってしまう。
「ざんねん、惜しかったねえ」
「次はきっと上手くいきますよ!」
気を取り直して、また最初からやろうとしたところで、スマートフォンの通知ランプが光っていることに気付く。
「集落の住職からだ。漬物や野菜なんかが飛ぶように売れて、みんな大喜びだからまた遊びに来いってさ」
「あれかあ。高くても上手くやればうれるんだね」
「そりゃあ、あんなに美しい大自然の中で丁寧に育てられたんだから、高級なのは当たり前だろう?」
「ですです。雪女米だってそうです。私の里の人たちが丹精込めて作ったんですから」
例のリゾート計画の一環として集落で取れる野菜や米、特産の漬物などをブランディングして販売する、通販サイトを立ち上げていた。もともと高齢者が多く収穫量が少ないのが逆に希少価値となっている。
「小太郎、みてみて定価の三倍以上で転売されてるよ」
「転売対策は何か考えないとな……」
霞が見せるスマートフォンの画面には、オークションサイトでプレミアム価格で売られている漬物が映し出されている。
「小太郎さんの考えた売り方大成功ですね」
「まあ、霞の座敷わらしパワーが無ければ、もっと苦労しただろうけどな」
ただの漬物とは思えない素朴な中にも高級感漂うパッケージデザインと、手に入りにくいというプレミア感。あとはネット上で少し話題になるだけでいい。話のタネに買う人もいれば、気に入ってリピートしてくれる人もいる。そういう人が話題に挙げてまた購入者が増える。
「よし! もうちょっと鍵頑張るか」
気分も上がったところで、また金庫の鍵に取り掛かる。少しガチャガチャやったとこで、今までの苦労が嘘のようにすんなりと開いた。
「開きましたね! すごいです」
「わたしより早いよ!」
「なんか掴めた気がする」
やはりコツをつかんだようで、なんどやっても数分でカチャリと小気味いい音がする。
「準備は完了だな。いつでもいける」
雪女の肌のようにつややかで美しい雪女米!
食べてみたいですね。
目標の20000ptまであとすこし!
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