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第39話 嫁探し

 とにかく、フランソワと話をして諦めるように説得してみるしかない。覚悟を決めて部屋に戻る。


「小太郎おかえり。フランソワちゃんは金髪碧眼のお嬢様が好みなんだって」


「その通り。ボクの嫁になるんだから、やはり高貴な見た目でないとね」


「なるほどな。フランソワは、どうして人間の嫁が欲しいんだ?」


 人間の女性にこだわる理由が理解できれば、諦めさせる方法も見えてくるだろう。フランソワは肩をすくめるようなしぐさを見せる。


「そんなの決まってるだろう? その方が見た目がいいからだよ」


「じゃあ、雌犬に魅力は感じないわけじゃないんだな?」


「もちろん雌犬は魅力的だけど、人間の女性の方が美しいからね」


 雌犬にも魅力を感じているなら、意外とすんなりと話がまとまるかもしれないな。


「人間の女性だと、一緒に歩いていても、ただの散歩にしか見えないんじゃないのか?」


「む、そういうものかな? ボクのようなイケメンでも同じなのかな?」


 フランソワの考えが少し揺らいでいるらしいところへ、霞と雪さんも援護射撃をしてくれる。


「わたし達でもギリギリ見えるくらいだからねえ。普通の人がみたら散歩に見えるかも……」


「ですね。私くらいの力だと相当気を付けないと見えませんから」


「だろ? やっぱり可愛い雌犬を探した方が、並んだ時の見た目は良いと思うぞ」


 ダメ押ししたことで、相当覚悟がゆらいでいるようだ。「確かに犬の方が」「いや、でも」と考え込んでいる。しばらくブツブツと悩んだ後、フランソワは俺の目をまっすぐに見て言う。


「やっぱり、ボクは人間の女性がいい」


 フランソワはどうしても人間の女性にこだわりたいらしい。どうやって説得するかと考えを巡らせる。これはフランソワと付き合ってくれる女性を探しているという事にしておいて、持久戦で説得するしかないのかもしれない。


 フランソワに「奥さん候補をさがしてやるよ」と言いかけたところで、部屋の扉がノックとほぼ同時に開かれた。こんな来訪は確認するまでもなく大輔さんだ。


 部屋に入ってきた大輔さんは、目ざとくフランソワを見つけたようで、少し困ったような表情を見せて言う。


「コタローちゃん。犬を飼うのはいいけど、エレベータには乗せないで。外の非常階段を使って欲しいわ。あとはビルに入ってる店から、苦情が出ないように注意してくもらえれば文句はないわね」


「いえ、大輔さん。この犬を飼うつもりは無いんで……」


「コタローちゃん薄情ね。こんなに可愛いんだから飼ってあげなさいよ」


 フランソワは、いつの間にか大輔さんに捕まって抱かれている。逃げようとするフランソワに有無を言わせぬ勢いで頬ずりを始める大輔さん。


「かわいいワンちゃんねえ」


「なにをする、放せ! なんだこの生き物は」


 言いながら、フランソワにキスの雨を降らせる大輔さん。


「あらあら、こんなに喜んじゃって! サービスしちゃう」


「ひぃっ、お助け」


 さらに降り注ぐキスの雨に、フランソワの四肢はピンと伸びたまま、ピクリとも動かなくなる。俺は心の底から同情するが、どうしてやることもできず、ただ見ているだけだ。霞と雪さんもドン引きの勢いで、大輔さんに蹂躙じゅうりんされていくフランソワ鈴木。


「やめてください……。キャンキャン」


 フランソワの口から発せられるのは、既に単なる犬の鳴き声でしかなくなっている。さらにイケメンだった顔も、今はもう普通のプードルにしか見えない。


 フランソワの全身がガクガクと痙攣けいれんしたかと思うと、額のあたりからふらふらと弱々しい光が出てくる。光は空中を少し漂ったあとポンとはじけて、虚空こくうに吸い込まれるように消えた。


「大輔さんすごいね。フランソワちゃん、もう普通の犬になっちゃったよ」


「私にはよくわかりませんが、調伏されたということでしょうか?」


 霞が言うに先ほどの光は、妖怪化していた魂の一部が抜けたものだったらしい。拒絶反応を起こした魂が、飛び出して崩壊したと考えて間違いないようだ。


「魂がそこまで追い込まれたってことか……。恐ろしいな」


「こんなに喜ぶなんて、ほんといい子ねえ。コタローちゃん飼っちゃいなさいよ」


 もはや普通の犬となってしまったフランソワ鈴木は、しっぽをブンブンと振りながら大輔さんの顔をなめている。人間の嫁にこだわっているより、今のほうが彼にとって幸せそうに見えるのは気のせいだろうか。


「フランソワちゃんの家、どこなんだろう?」


「さあ? とりあえず飼い主が居ないか探さないとですね」


 フランソワがどこから来たか聞いた覚えがない。綺麗に手入れされているし野良ではなく飼い主はいるのだろうが、探す方法がない。ネットやビラで探すにしても時間がかかるだろう。


「つまり当分の間、コイツは俺たちが飼わないとダメってことかよ……」


 騒動を巻き起こしたフランソワは、俺たちの苦労なんてお構いなく、嬉しそうに部屋の中を走り回るのだった。

普通の犬になったフランソワ鈴木。飼い主が早く見つかると良いのですが……


目標の20000ptまで後500切ってます!

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人類最強の暗殺者と史上最弱の勇者
今までの作品とは雰囲気が違いますが、楽しんでいただければなあと思います。



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