表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/73

第37話 特訓

 俺は今までで一番と言っていいほど、精神的に試される状況に置かれていた。この状況で平常心を保てる奴がそう多く居るとは思えない。


「小太郎様、もっと強く抱きしめてください」


「こ、こうか?」


 俺は雪さんを背後から強く抱きしめるようにする。より距離が近づいたことで、雪さんの淡い髪の香りを感じる。雪さんはあまり肉付きの良い方ではないが、こうやって抱きしめると、十二分に女性らしい感触を持っていることが分かる。


「んっ……、小太郎様の吐息が……」


「すまない、少しだけ我慢してくれ」


「へえええ、すごいよ! 本当に二人とも見えないねえ。それに、カメラにも映ってないよ」


 様子を見ていた霞が緊張感の無い声を出す。こちらからは霞の姿がちゃんと見えている。しかし、ラップトップに表示されている映像には、俺たちの姿はない。不思議な光景に意識を集中することで、煩悩を追いやろうと努力する。


「ふむ、ではそのまま映らぬように移動してみるが良い」


 ましら源蔵げんぞうは一升瓶を抱えたまま、俺と雪さんに指示をだす。そう、俺たちは今屋敷に侵入するための練習をしているのだ。


「じゃあ、雪さん。行くぞ……」


「はい。心の準備はできています」


 雪さんの氷に隠れるという技は、見えないだけでなくカメラにも映らない。そのうえ氷を使っている関係からか、赤外線にも引っかからないという優れ技だ。欠点は隠せる範囲が狭い事かな。おかげで俺は雪さんを抱きしめて移動する必要がある。


 じりじりと俺と雪さんはを進めていく。やってみると分かるがなかなかに難しい、なんせ少しでもタイミングがずれるとカメラに映ってしまう。


「小太郎、アウト―! いま足がちょっと見えたよ!」


「くそっ、マジか……」


 集中が切れてしまった俺は、雪さんを抱きしめる手を放すと、手足を投げ出し床に座り込む。本番までにはしきりに沿って部屋を二、三周は軽くできるようになる必要がある。


「移動の練習だけでもこれなのに、金庫破りの特訓もあるんだよなあ」


 ぼやきながら目をやる先には、大輔さんが手配してくれた金庫の鍵がある。錠前士が訓練に使うもので、鍵の部分だけをカットしてあるものだ。もちろん、鳳来の屋敷にあるモデルと同じものである。


 一緒に届けられたマニュアルを見ながら挑戦しているが、いっこうに上手くなる気配がない。昨日一度だけ開いたが、二度目がなかったのでただの偶然かもしれない。落ち込む俺に追い打ちをかけるように霞が言う。


「ねえ、こんどはわたしと移動する練習しよ?」


「なんでだよ。霞は消えて移動するんだろ?」


「二人三脚みたいで楽しそうだから、わたしもやってみたい!」


「霞さん! ドキドキしてとっても楽しいですよ!」


「ほら! 小太郎はやくはやく!」


 雪さんまでそのような事を言い出す。ほんと疲れるんで勘弁してほしいのだが、なんだかんだ結局やることになるのだろう。俺は諦めの境地で「わかったよ」と答えるのだ。


「さあいくよ! 小太郎」


 俺の前で気合を入れる霞に密着する。想像以上に柔らかさにドキリとしてつい手を緩めてしまう。「なに遠慮してるの?」という霞の言葉にやけ気味に強く抱きしめる。雪さんとはまたちがう、日向ぼっこした後のような太陽の匂いがする。


「よし、いくぞ!」


 霞と一緒に移動を開始する。先ほどと同じような動きをするのだが、ラップトップにはばっちりと二人の姿が映っている。映し出される映像は、さしずめ嫌がる女性をどこかに連れ去る俺といったところだ。本当に間抜けな姿で非常に恥ずかしい。


「なんじゃ。霞殿とのほうが上手く動けているではないか」


 悔しい事だが、練習など必要ない今の方が上手く動けているのは事実だ。たっぷり十分ほども動き回ったところでついに限界が訪れた。


「もう無理! 少し休憩させてくれ」


 俺がを上げるのを待っていたかのように、ドアをノックする音が響く。わざわざノックするなんて、大輔さんにしては珍しいなと思いながらドアを開く。が、そこには誰いない。不思議に思っていると足元の方から声がした。


「やあ、君が噂の小太郎君かな? ボクの名前はフランソワ・鈴木、君に頼みがあるんだよ」


 声の主は、とんでもなくイケメンな人面犬だった。

侵入する練習をしているはずなのに、なんだか楽しそうですね……


2万ポイントを目指して頑張ります


もしよろしければ、まだの方はブクマや評価などで応援してください。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓新作です↓
人類最強の暗殺者と史上最弱の勇者
今までの作品とは雰囲気が違いますが、楽しんでいただければなあと思います。



小説家になろう 勝手にランキング script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ