第36話 泥棒神社
俺たちは先日買った分よりさらに多くのキュウリを持って、安太郎の元へと来ていた。あの日結局安太郎は、ほんの数時間ですべてのキュウリ食べきっていた、これもすぐ食べてしまうのだろう。
「と、いうわけで泥棒神社へ行こうと思ってるんだが」
「それがエエでしょうな。相当に偏屈な奴やけど、事情をきちんと説明すれば手伝ってくれるでしょうな」
「安太郎の知り合いなら安心だな。一緒に行って、紹介してくれると助かるんだが」
しかし、安太郎はキリっとした表情でこう言った。
「折角ですけど、お断りさせてもらいますわ。ワイとあいつとは七夕相撲の永遠のライバル。試合の日以外に会うつもりはおまへん」
「へえ、そいつも相撲が得意なのか」
「ここ数年汚れた水で体調が悪かったせいで、百三十勝百三十五敗で負け越してましてな。ワイはほんま悔しゅうて悔しゅうて」
安太郎はひとしきり悔しそうにしたあと、俺の目をまっすぐに見る。
「でも、小太郎さんのおかげで次は絶対に負けまへん!」
残念だが、俺たちだけで会いに行ってみるしかないようだ。安太郎に別れを告げると神社へと向かう。
安太郎に言われた通り、駅前の商店街で酒と枇杷を買う。
泥棒神社は暫く歩いたところにあったが、社殿へと向かう入口にはつい見落としてしまいそうな小さな鳥居があるだけだ。生い茂る林の中を社殿へと登っていく。一升瓶と枇杷がずっしりと重い。
「ちょっと寂しいところだね」
「泥棒の神様ですからね……。訪れる人も少ないんじゃないでしょうか?」
「どうだろうな。雑草なんかも綺麗にされてるし、意外と人気があるのかもしれないぞ」
神社というのはどこも鳥居を抜けた瞬間、荘厳な雰囲気を感じさせるような、独特の空気を持っているように思う。
頂上の少し開けた場所にある社殿は、とても小さく小ぢんまりとしていた。両手を広げれば収まってしまいそうな規模だ。石段の前にはちょっとした広場がある。安太郎は恐らくここで相撲を取るのだろう。
「かわいい神社ですね」
「小さな神社だとは聞いていたが、ここまでとはな」
どうやら泥棒神社というのは通称で、立札には本来の社名と並んで盗人神様と書かれている。
「でも小太郎、ここには誰もいないねえ」
霞の言う通り目の届く範囲には、それらしい妖怪の姿は見えない。ずっと待ち構えているわけにもいかないだろうから、当然なのかも知れない。
「留守なんでしょうか?」
「できれば、そう何度も通いたくはないんだが……」
「お前ら、ここに何か用があるのか?」
背後からかけられた声に振り向くと、そこには一匹の猿が立っていた。
「その酒は捧げものか? よこせよこせ」
猿は俺が持っている二本縛りにしてある酒を、奪うように受け取ると開ける手間も惜しむようにして飲み始めた。
「枇杷も持ってきたよ」
「酒の肴には合わんな」
文句を言いながらも、霞が差し出す枇杷をしっかりと受け取る。酒だけを飲み続け、一升瓶が半分ほども空いた頃猿は言った。
「おいらの所へ来たんだ。何か頼みごとがあるのだろう? 任せておけ、引き受けてやろう」
まだ何も言っていないのに引き受けるという。あまりの話の進み具合に不審感が頭をもたげる。
「気難しいと聞いていたんだが、いいのかそれで?」
「お前、久世小太郎だろ? 風のうわさに聞いてるぞ。お前の頼みなら問題ない」
頷く俺を見て、猿は「俺が猿の源蔵だ」と名乗った。確かに時代劇などで耳にする盗人の名前らしくはあるが、猿というのはあまりにもひねりが無いように思う。蛇とか言い出すのも変だが、もうすこしどうにかならなかったのか。
「神様にまで名前を憶えられているなんて、さすがは小太郎様です」
「やっぱり小太郎は恰好いいねえ」
霞と雪さんは褒めてくれているつもりなのだろうが、人外界で有名になっても一つも嬉しくなどないんだがなあ。
「何をするのか、早く説明せんか」
怒り始めた気の短い盗人神に向かって、俺は事情を説明するのだった。
盗人神についてですが、意外と泥棒の神様っているんですよね。
有名どころだと、ギリシア神話のヘルメスなんかも泥棒の神様ですし。
でも、ここに出てきた盗人神や神社は実在のモノとは一切関係ないですからっ!
次回は少し息抜き回になる予定です。
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