第35話 安否
安太郎に手紙を頼んでから、既に三日経っていた。心配になって何度か川へと出向いたのだが、しかし安太郎が現れることは無かった。
「安太郎ちゃん、大丈夫かなあ……」
「心配ですよね」
「大丈夫だとは思うが、あいつにもスマホを持たせておけばよかったな」
過ぎてしまったこととはいえ、対応のまずさが悔やまれる。どうしたものかと思案していると、スマートフォンにメッセージが着信した。
――おてがみうけとりました わたしはなにをすればいいのですか
発信元は都さんに届けたスマートフォンからだった。無事に受け取っているという事は、安太郎は見事にやってのけたということだ。
大金星の安太郎にはまた、キュウリをたっぷりと届けてやらないとな。
無邪気に喜んでいる霞と雪さんを横目に、俺は返信する内容を考える。まずなにより知っておくべきことは、うちでのこづちの在処についてだろう。
うちでのこづちの事を聞くためメッセージを送ると、五分ほど間をおいて返信があった。
――はだみはなさず もちあるいている よるはきんこ
と、なると取れる手段として考えられる方法は二つある。出かけているときに襲撃して奪うか、夜間に金庫から盗み出すか。都さんへはまた連絡するから待っていてくれと返信しておく。
「ねえ小太郎、都さんはどうするの?」
「そのまま屋敷に残ってもらった方がいいだろう。下手に動いて、銀行の貸金庫にでも入れられると、どうにもできなくなるからな」
都さんには、もうしばらく我慢してもらうしかないな。
「でも、どうやって取り返しましょうか……」
「返してって言っても、無駄だろうしねえ……」
木塚の資料をみても、外出時にはボディガードやらを大勢引き連れているし、血を見るような荒事はできるだけ避けたい。力ずくで奪うという方法は、まずあり得ないだろう。
「リモコン隠しみたいに、こっそり奪うしかないんだが。難しいよな」
「あの子どこ行っちゃったんだろうね……。手伝ってくれれば助かるのに」
まあ、リモコン隠しがここに居たところで、あれが力を貸してくれるとは、とても思えない。霞たちも良いアイディアが思い浮かばないらしく、難しい顔をして考えこんでいる。
「コタローちゃんたち、難しい顔しちゃって、何を相談してるのかしら?」
驚いて声のする方を見ると、いつの間に部屋に入ってきたのか大輔さんがテーブルの側に立っていた。しまったと思った時にはもう、広げてあった木塚の資料を大輔さんは手にとって目を通していた。
「ふうん、鳳来に何か仕掛けるつもりなのね。あと十歳若ければ付き合ってあげたんだけど」
何をしようとしているのか、という大輔さんの質問に観念して答える。
「奴がいつも持ち歩いてる物を取り返そうと思ってるんだが、泥棒なんてしたことが無いからどうしたものかと」
「泥棒ね。プロフェッショナルを紹介してあげたいんだけど、彼海外出張中なのよね」
流石は大輔さんの謎人脈、泥棒のプロフェッショナルまでいるのかと感心する。
「代わりになるか分からないけど、泥棒神社にでもお参りしてみれば?」
安太郎に手紙を託して計画を説明した時に、泥棒神社に住んでいる奴に会えば力になるかも、と言ってた事を思いだす。
「それ安太郎ちゃんも言ってたよねえ」
「ですね。有名なんでしょうか?」
「気休めだと思うけど、泥棒さんたちは、しょっちゅうお参りしてるわよ」
それだけ言うと、大輔さんは店に使う書割を一枚持って、さっさと店へと戻ってしまった。
「一応いってみるか?」
「そうだね。行くだけ行ってみよう」
「安太郎さんもさそってみますか?」
「だな。無事か確かめたいし明日にでも川にいってみるか」
ただお参りするだけなら、無駄足になる可能性が高いが、安太郎の言葉もある。何か棲んでいるのは確かなはずだ。他にあてもないし。行ってみるしかないだろう。
安太郎の活躍を書こうと思っていたのですが
視点が別になってしまいますし、とりあえずこんな形になりました。
河童の大冒険は後日、EXみたいな感じで書きたいと思います。
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