第30話 鬼召喚
食事を終えた俺たちが会計へと向かう途中に、来店記念を受け取っていた家族の座るテーブルの近くを通ったが、未だに料理が来るのを待っているような状態だった。
「やっぱり、避けて正解だったな」
「ほんとうだよ。あんなに待たされたら、お腹ペコペコでしんじゃう」
「そんなんじゃ死にませんけど、避けたのは正解ですね」
軽口をたたき合いないながら会計をすませると、そのまま三人で公園へと向かう。
力を貸してくれることになった金剛丸を使うのに、少し慣れておく必要があるからだ。
箱を作った法師は、金剛丸を瞬く間に呼び出して見せたらしいのだ。俺が部屋の中で呼び出してしまった時は、大体一分近くかかっていたはずだ。もし、襲撃されたときに一分もかけてノロノロと呼び出していたのでは、命がいくらあっても足りはしない。
「ここら辺なら大丈夫そうか」
「静かでいいところだねえ」
俺たちは公園にある遊歩道の外れに来ていた。もともと人気の少ない静かな公園ではあるのだが、この辺りは通り抜けもできず行き止まりになっているので殆ど人が来ない。
金剛丸の姿は普通の人には見えないという事なので、わざわざこんなところまで来る必要はなかったのかもしれない。だが、万が一のことを考えれば用心しすぎということはないだろう。
霞と雪さんは、持ってきていたレジャーシートを広げて座る。
「小太郎様、ファイトです!」
雪さんは応援してくれているが、箱を片手に金剛丸の名前を呼ぶだけの事である。頑張るほどのものとは思えない。まあ、やってみるさ。
「鬼王、金剛丸!」
もくもくと煙が現れると、たっぷり一分ほどの時間をかけて金剛丸が現れた。
「おぬし、やる気はあるのか? ワシを呼ぶ声にもっと念と力を込めるのじゃ」
「そうは言ってもなあ……。前の時みたいに、危険を察知したら自分で出てきてくれればいいんじゃないのか?」
「あんなこと、そう何度もしてたら箱が壊れてしまうわい」
そういえば箱に封印されているわけじゃなくて、法師に作ってもらった住処なのだったな。
「鬼王! 金剛丸!!」
自分では気合をしっかり入れたつもりだったのだが、ダメ。金剛丸が現れるまでの時間は、ほとんど変わらない。
その後も何度も試してみるが、短くなったり長くなったりで目立って時間が短縮されることはなかった。
「小太郎、やっぱり気合が足りないんだよ」
「どういうことだよ。念みたいなものは、しっかり込めてるつもりだぞ?」
「念じゃなくて、気合だよ気合。スーパーロボットものみたいに思いっきり気合を入れて呼ばないとダメなんだよ」
まともなアドバイスかと思って期待した俺がバカだった。霞はきっとネットで昔の熱血アニメでも見て影響されたのだろう。
「そんなバカな話があるかよ。雪さんもそう思うよな」
「いえ、私も気合は大切だと思いますよ? 小太郎様なら、それも格好良いかとおもいます」
常識人だと思っていた雪さんまで、そんなことを言うのか。
「分かったよ。やってやる!」
右手に持った箱に目をやり呼吸を整える。
覚悟を決めた俺は、まるで子供向け番組のヒーローのように大声で叫ぶ。
「でろ!! 鬼王――」
そこまで叫んだところで、やってきた人影を見つける。それはランチボックスを提げ、右手で男の子の手を引く若い主婦だった。
だが、この勢いはもう誰にも止められない。
「――金剛丸!!」
箱からは今までとは全く異なる勢いで煙が噴き出し、ものの数秒で金剛丸が姿を現した。だが、金剛丸の姿は親子には見えていないようで、ただ俺の奇行にポカンとした表情を見せている。
「ねえママ、あのオジサンへんだよ?」
そう口にした男の子を抱き上げ、視線を合わせることなく会釈して若い母親は、素早く来た道を引き返していった。
それを見ていた霞は腹を抱えて笑っているし、雪さんにいたっては雪女の能力で姿を消している。
「小太郎、落ち込んだら負けだよ。呼び出すのは上手くいったしね」
「小太郎様、びっくりして隠れてしまいましたけど。格好良かったですよ」
霞は笑いをこらえるようにしながら、雪さんは申し訳なさそうに言う。
金剛丸にいたっては。いかにも上機嫌で「ほかに真言なども混ぜるとより早くなるじゃろう」などと言っている。
既に数秒で呼べたのだから実用上はもう十分だろう。ほんの少しの時間を短縮するために、さらに呪文を唱えるなんて遠慮したいところだ。しかし、念のために覚えておく必要はあるだろう。備えあれば患いなしというやつだ。
「でも、やっぱりさっきの親子には金剛丸のこと、見えてなかったみたいだね」
「確かにな。もし見えてたら子供とか泣き出すだろうし」
金剛丸は「失礼な事を言うやつじゃ」と怒っているが、普通の人には見えないというのは間違いないだろう。そして、襲撃してきた山伏姿の連中もやはり多少なりと力を持っているという事になるはずだ。
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