第28話 うちでのこづち
「うちでのこづちって、あれだよな……」
「人でありながら、うちでのこづちの事を知っておるのか」
うちでのこづちというのは、振れば金銀財宝が出てくるとかいう小槌だったはずだ。確か桃太郎にも一寸法師にも、鬼の宝として出てきた記憶がある。そんなものが実在しているというのか。
「うちでのこづちから出てくる金銀財宝も、鳳来の資金源なのか?」
「勘違いしておるようだな。うちでのこづちにそのような力はない」
金剛丸の弁によると、望めばうちでのこづちから金銀財宝を出すこともできるが、かりそめの存在で暫くすると消えてしまうらしい。
「うちでのこづちは、振りかかる厄を払う宝だ」
「なるほどな。そういう事か」
鳳来を調べていて疑問だったのは、座敷わらしが出ていったというのに、振りかかる不幸が少ない事だった。多少の打撃を受けているとはいえ、屋台骨をゆるがすほどではない。だがそれも、うちでのこづちが降りかかる厄を払っていたのだとすれば納得だ。
「つまり、うちでのこづちを取り返せば問題は全部解決だね」
霞のいうとおり、うちでのこづちを奪えば話は早いのだろうが、まず保管場所を知る必要がある。
それにあの術者たちが、どんな力を持っていて、どんな術を使うのか想像もつかない。
「あの山伏みたいな姿の術者たちか、そもそも術者が何をする連中なのかもさっぱりわからん」
「おぬし、そんなことも知らんのか……」
金剛丸は呆れるように言うが、ほんの半年ほど前の俺はただのブラック企業に勤めるサラリーマンだったのだ。術者なんてものはどんなものか知らないのも当然だろう。
「奴らの事は気にする必要はなかろう。術者というのもおこがましい程の力しか、もってはおらん。この小鬼姿のワシですら調伏できまいて」
小鬼姿の金剛丸を見る。ゲームセンターの景品にあるフィギュア位の大きさだ。
「ところで金剛丸は、自由に体の大きさを変えられるのか?」
「そんなに都合よく出来てはおらん。元の姿か、この姿かどちらかしか無理じゃ」
「金剛丸の力はあてにできないな……。目立ちすぎる」
普通の人間サイズで力を振るえるのであれば心強かったのだが、身の丈四メートル近い金剛丸を人目のある所では呼び出すわけにはいかない。 呼んだその場でパニック状態になるのは目に見えている。
「あの、小太郎様。そんなこともないと思います」
雪さんが教えてくれる。オニというは「隠」から来たとも、「陰」から来たとも言われる。
ごくごくあたりまえの此岸の世界、つまり陽。それに対して普通の人には見えない彼岸の世界、隠・陰。他の妖怪たちと同じく、鬼もまたそちらの世界の住人ということだ。
だからこそ鬼からすれば、他人から見えないようにすることなどたやすい事らしい。
「小太郎様のような方から隠れるのは、なかなか難しいでしょうけど」
とにかく都という鬼と、連絡を取ってみなければ話が始まりそうにない。
そのためにもまずは、鳳来の内情を探る必要がある。俺の人脈も当たってみるつもりだが、それに加えて大輔さんにそういった事を頼める人が居ないか、相談してみるべきだろうな。
「あとは、できるだけ一人にならないように三人で行動しよう」
俺にはほとんど力がないが金剛丸が力を貸してくれるというなら、単独行動はさけるべきだ。
「小太郎、それいつもと変わらないよ」
「そうですね。大体いつも一緒です」
二人の指摘に緊張の糸が切れてしまう。確かにいつも通りだ。金剛丸をみた連中のあわてっぷりからしても、まだ時間はあるはずだ。慌てず確実に鳳来を追いつめていけばいい。
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