第27話 おとぎ話
みるみるうちに姿を現した金剛丸が、俺と鬼女の間に立つ。
(金剛丸さま……)
(都よ、なぜお前が人を狙う? よもや誓を忘れたわけではあるまい?)
金剛丸の問いかけに、彼女は答えない。ただ唇を噛んで黙っている。
沈黙がその場を支配する。それを破ったのは金剛丸でも鬼女でもなく、襲撃者達のリーダーらしき男の声だった。
「なんだあの大鬼は! あんなものを使役しているなんて話が違う。いったん引くぞ!」
するとどこに隠れていたものか、山伏のような姿をした術者らしき男が十数人ほど姿を見せた。俺は奇襲にそなえるが、言葉通りに撤退を開始する。
(うちでのこづち)
その一言だけを残して、金剛丸が都と呼ぶ鬼女も姿を消す。金剛丸も何も言わず箱の中へと戻っていってしまった。
後に残ったのは彼女の得物だった薙刀だけだった。それを見つめながら消える直前に都が見せた表情を思い出す。間違いなく彼女の目じりには一筋の涙がこぼれていた。
――鬼の目にも涙か……
「小太郎! 心配してたんだよ」
「そうですよ。いつもは私たちより早く戻っていますのに」
二人は俺の無事を確認するように小走りにやってきた。
「心配させたみたいだな。二人ともごめん」
「なにそれ? 薙刀?」
そのまま帰ってくれば霞たちより先に戻れたのだろうが、あんなところに薙刀を放置しておくわけにもいかず、持って帰ることにしたのだった。できるだけ人通りのない道を通るために随分と遠回りするハメになったことが遅くなった理由の大部分である。
俺は先ほどの出来事を順を追って説明していく、話が進むにつれ霞と雪さんの表情は険しくなっていく。
「それって鳳来だよね?」
「だろうな。他に襲われるような心当たりはない」
「その、金剛丸様が何か知っておられるのですよね?」
俺はポケットから箱を取り出しテーブルの上に置く。これに関してはいくつか気になることがある。
一つ目はもちろん、あの都という鬼女に関すること。金剛丸は俺を助けてくれたというよりは、あの鬼女に人を殺めさせたくなかっただけのように思える。
もう一つは、住職の話では鬼は封印されているはずなのに、呼び出してもいないのに出てきたのはなぜなのか。
「そろそろ話を聞かせてもらえないか?」
俺の言葉は間違いなくきこえているはずだが、箱は沈黙を保っている。
「聞こえてるだろう? 都というのは知り合いか? 誓いとはなんだ?」
「おぬし、鬼の言葉がわかるのか……」
金剛丸の諦めたような声が聞こえたかと思うと、小鬼が現れ箱に腰かける。
「鬼の言葉?」
「都との会話を聞いておったのだろう?」
少し聞き取りづらい不思議な聞こえ方をすると思っていたが、あれは鬼の言葉だったのか。風のうわさと同じく本来理解できるものではないらしい。
「どこから話したものか……」
――まず最初に、都はワシの盟友である瑪瑙丸の娘じゃ。
あれは、ワシがまだこの箱に入る前の話になるか。そのころのワシは鬼の山で棟梁をやっておった。
人間との間に小競り合いもあったが、おおむね上手くやっておったといえるだろう。
人間たちに仇をなす鬼もいたし、何もしていない鬼を狩ろうとする人間もいた。お互い様というやつだな。
だが、それも長くは続かなかった。どんどんと勢力を伸ばす人間たちは、ワシら鬼が邪魔になってきたのだろう。執拗にワシらに小競り合いを仕掛けてくるようになった。
人間どもにワシら鬼を攻めるための口実を与えぬようにするため、人に仇をなすようなことはせぬという誓いをたてたのじゃ。
それでも何かにつけて鬼を追い払おうとする人間に疲れたワシは、瑪瑙丸に鬼の宝を託して新天地へと旅をさせることにした。山に残ったのはワシをはじめ数人の鬼たちだけだった。全員で行かなかったのは追撃される恐れがあったからだ。
ワシと仲間は攻めてくる人間を傷つけぬように気を付けながら、ただ追い返すだけの日々をすごすことになった。そのおかげで人間たちも本格的にはせめてこなかったのじゃ。
瑪瑙丸たちは人の住まぬ海に浮かぶ小島へとたどり着いて、そこに新たな鬼の里をつくったと風のうわさにきいて安心しておった。
もはや思い残すこともない。人間に討たれてやってもよいかと考えていたある日、旅の法師が訪ねてきたのだ。別の住処を用意する故この土地を明け渡してはくれぬかと。その法師が用意してくれたのがこの箱というわけだ。
「託した宝が、うちでのこづちということなのか? まるでおとぎ話だな……」
「金銀財宝もあったが、うちでのこづちは鬼の重宝だ」
そういったあと、小鬼姿の金剛丸は立ち上がり頭を下げる。
「恐らくうちでのこづちを奪われて脅されているのだろう。ここまで話したのだ、頼む都を助けてやってくれ」
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