第26話 鬼と鬼
玄関の扉をあけると待ち構えていたかのように霞が目の前で待っていた。
「小太郎! それに雪さんも! おかえりだよ」
「ただいま」
「ただいまです」
出迎えてくれた霞に手荷物分のお土産を手渡す。発送した分もあるというのに結構な量がある。
「あれ? 頼んでないのも入ってるよ」
「ああ、それは大輔さんたちと安太郎の分だな」
大輔さんのお店と、時々魚を届けてくれる安太郎の分も土産物を買ってきたのだった。キュウリの漬物なら河童も喜ぶだろう。大輔さんたちの分は定番のお菓子の詰め合わせだ。
「わたしも小太郎たちと一緒に行けばよかったよ……」
ごそごぞとお土産物を開けながら霞がつぶやく。
「ん? ネトゲの限定イベントはどうだったんだ?」
「あれ、すぐ終わっちゃって……」
「ああ……。なるほどな」
座敷わらしの力は、家に関係のないゲームようなものにも幸運が発揮されるらしく、霞はどんなレアアイテムでもすぐに手に入れてしまう。それも次々ゲームを乗り換える霞の飽きっぽさの原因の一つだろう。
「お土産、どれもおいしそうだね。お茶をいれてくるよ」
「あ、私も手伝います」
帰ってきたばかりなんだから休んでいろ、という霞を押し切るように雪さんも続く。しばらくするとキッチンの方から二人の楽しそうな声が聞こえてくる。
お茶が入ればお土産をつまみながらの旅行記のはじまりだ。
「でな、その綺麗な夜景を見た帰りなんだが……」
やはりターボババアの話は外せないだろう。あの後いつの間にか婆さんの姿は消えていたのだが、あの婆さんにはまた会うような気がするのはなぜなのか。
「ターボババア見てみたかったなあ」
「知ってるのか?」
「ネットでも有名だからね!」
あれだけインパクトのある婆さんなら、話題になるのも当然なのかもしれない。似たような話にドリブルババアとかホッピングババアとかもあるらしい。謎の多いババアだ。
「これ本当に美味しいですね。私こんなの初めて食べました」
「でしょう! 霞ちゃんセレクトだからね」
霞が厳選したアイテムだけあって、お土産品はどれもこれも非常においしい。これなら宅配で送ってある分も期待できそうだ。
「雪ちゃんは、お土産は買わなかったの?」
「私はこれを買っていただきました」
雪さんは昨日かったネックレスを見せる。やはり何度見ても良く似合っている。我ながら最高の選択だったといえるだろう。
「えーいいなー。小太郎、わたしにも買ってよ」
「お土産かってきただろ。それに、アクセサリならいつも通販で買ってるじゃないか」
「それとこれとは話が別だよ。わたしも小太郎に選んでほしい!」
雪さんも霞に味方するらしく、霞の意見に頷いている。
「わかったよ。今度機会があればな」
いつになるかわからない約束だったが、それでも霞は満足してくれたようで、楽しそうに笑っている。バランスを取るなら雪さんにもまた何か買ってあげないといけないかもな。
夜、銭湯を出た俺は、部屋に向かって一人で歩く。
雪さんが一緒に住むようになってからは行きは三人一緒だが、帰りは俺は一人で帰る事がほとんどだ。そして雪さんと霞は二人で帰る。その方がいろいろと都合がよかった。
普段と変わらぬ帰り道のはずが、今日は様子が違っていた。滅多に人に会う事のない閑散とした道に差し掛かった時、行く手を遮るように人影が現れた。
不審に思った俺は立ち止まり様子をうかがう。雲の合間からさす月の光に浮かび上がったのは、薙刀を構えた美しい鬼女だった。
「恨みはありませんが、お覚悟を」
ぞわりとしたものを感じて後ろへ飛びのく、手に持っていた風呂桶がすっぱりと斬り裂かれている。少しでも反応が遅れていたら俺自身が袈裟懸けに斬られていたはずだ。
「なぜ俺を狙う」
鬼女に問いかけてみるが返事はない、話すつもりも見逃すつもりもないらしい。霞と雪さんがこの場に居ないのがせめてもの救いだと思う。
何度も避けられる気がしない逃げる隙がないか伺う。しかし、俺を狙うのは鬼女だけでなく、どうやら取り囲まれているようで逃げるのは難しいだろう。
瞬間、鬼女の姿が視界から消える。それが攻撃のための踏み込みだと気づいた時には、既に薙刀が俺に向かって振り下ろされようとしていた。ここまでかと覚悟を決めるが、その瞬間は訪れなかった。
(都よ、話を聞かせてもらおうか)
鬼の箱から伸びた金剛丸の腕が、薙刀の柄をしっかりと掴んでいた。都と呼ばれた鬼女は薙刀を手放して距離をとる。
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