第24話 港町
風邪も落ち着いてきたので、近いうちに朝夕投稿に戻したいと思います。
案内された建築事務所の会議室はさすがに細部まで入念に作られていて素晴らしい。それなのに圧迫感も感じずリラックスできる環境になっているのに感心してしまう。
「久世さんはじめまして、今回は私が担当させていただきます」
握手を求めてきたこの人こそ、建築事務所の代表建築士で彼の設計したものは世界的にも評価がたかく業界ではかなりの有名人だ。
「よろしくお願いします」
握手をして席につく。隣に雪さん、対面に建築事務所のメンバーたちという形だ。
霞はというと、ハマっているネトゲの限定イベントがあるから行けないからと、無駄に長いお土産リストを押し付けて部屋に戻ってしまったのだ。これを全部買って帰るのは地味に大変なんじゃないのだろうか。
「ここの囲炉裏についてですが、どのような料理を出す予定なのですか?」
「基本は鍋料理ですが、塩焼きの魚を焼いたりするかもしれません」
「そうなると、炭を使った方がいいかもしれませんね。鍋だけならガス式のほうが便利なのですが……」
こんな調子で微に入り細を穿つ質問が繰り返されていく。念入りに計画を立てていたつもりだが、予想外の事を質問されてその場で話あって解決するようなこともある。
「では、またあとでご連絡します」
建築士と夕食の約束をして、霞のお土産リストを買いそろえるために街へと繰り出すことになった。生もの系は明日の朝から買うとして日持ちするものを中心に買う事になるな。
「小太郎様、見てください! 帆船ですよ!」
雪さんは俺の手を引いて帆船の方へとせかすように歩いていく。
「これはすごいな」
雪さんは普段の落ち着いた雰囲気から想像できないくらいにはしゃいでいる。俺も帆船を初めて近くで見て興奮しているから人の事は言えないが……。しかし、帆船というだけでどこかロマンを感じるのはなぜなのだろう。
「観覧車もありますね」
「乗ってみるか?」
うんうんと頷く雪さんと観覧車に乗る。平日のうえ学生はまだ授業が残っている時間帯なおかげで並んでいる人もなく乗ることができた。
「私、観覧車はじめてです」
「そうなのか、まあ里にはなさそうだからなあ……」
雪さんは今まで里から出ることもほとんどなかったらしく、バスや電車の乗り降りも慣れるまでが大変だった。しかし、最近では霞の影響もあってそんなところはかなり薄れている。
「おまたせしました。次どうぞ」
係員が微妙な視線を向けてくるのが気になるが仕方ないだろう。俺はネクタイだけは外したとはいえスーツを着ているし、雪さんも同じくビジネススーツを着ているからな。仕事をさぼって遊んでいる男女にしか見えないだろう。
「緊張しますね……」
「そうか?」
俺と雪さんを乗せた観覧車は徐々に高度を増していく、三分の一ほど上ったところで雪さんの様子がおかしいことに気付く。いつもは綺麗なだけの白い肌が若干青ざめてきているのだ。
「どうした?」
「いえ……、観覧車というのは思ったより恐ろしい乗り物なのですね」
「もしかして、高いのが怖いのか?」
しかし俺の質問は、雪さんが上げた悲鳴にかき消されてしまう。ゴンドラが風に少し揺れただけなのだがそれが怖かったらしい。
観覧車はまだ半分も上がっていないのというのに、雪さんは雨に濡れた子犬のようにプルプルと震え始めた。
「ちょっと揺れるぞ」
断って雪さんの隣に移る。そのちょっとした揺れにも、声にならない悲鳴をあげているのだから相当な高所恐怖症なのかもしれない。
なんとか最小限の揺れに抑えて移動した俺は、子供をあやすように雪さんを抱き寄せる。そうすることで落ち着いてきたのか震えは多少ましになった。
「少しは落ち着いたか? できるだけ外は見ないようにした方がいい」
雪さんは俺にしがみつきながら、小さく「はい」と答える。常人より体温が少し低い雪さんをこうやって抱いていると、本当に雨に濡れた子犬を保護しているような気分になってくる。
足元のおぼつかない雪さんを支えるように観覧車を降り、近くのベンチに座らせる。暫く経ってやっと調子を取り戻してきたのか雪さんが口を開く。
「すみません……。自分で乗りたいといったのに」
「謝る事はないさ。どう感じるかなんて、実際に乗ってみないと分からないしな」
回復した雪さんと俺は近くにあるモールへとお土産を買いに向かう。この街で有名な店が多く出店しているのでお土産リストもかなりクリアできるはずだ。
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