第22話 バーチャルの世界
風邪の為、今日はこの一話だけになる予定です。
俺の目の前には夜空を真っ赤に染めて焼け落ちていく天守閣の姿があった。体全体に吹き付ける風も熱を帯びていて、ついついバーチャルであることを忘れそうになる。
天守閣の中ではついに、若武者が姫のもとへとたどり着く。猛々しく燃える炎の中へと消えていく若武者の亡霊と姫、そして二人の魂は天に召される。
アトラクションが終了してゴーグルなどを外す。悲恋の話だっただけに同時にはいった周りの客たちの中には涙をうかべているものも多い。
「ハッピーエンドで良かったね」
カフェで話す霞の感想は、俺の想像していたものとは全く違っていた。
この世とあの世の区別があいまいな霞のような存在にとっては、この世で一緒になるのも、あの世で結ばれるのも同じことなのかもしれない。
「俺は生きてる二人に幸せになってほしかったけどな」
霞もその点は同意らしく「もちろん、それが一番だけどね」とミルクティーを飲む。話題は途中に出てきた妖怪たちの話へと移っていく。
「そういえば途中で出てきた妖怪だけどさ」
「わたし、河童が出てきたとき笑っちゃったよ」
「あれはないな」
やはり妖怪の中でも知名度の高い座敷わらしと河童は当然のように出てきたのだが……。
河童はひどかった。鍛え上げられたスポーツマンのような八頭身の体形で、さらにはイケメンだったのだ。全身が緑のイケメンというだけで既にギャグなのに、俺たちは本物の河童を知っている。
「わたしたちは安太郎ちゃんの、どこかの部長みたいな体形みなれてるからねえ」
「あんなだけど、水の中ではとんでもなく早いからなあ」
座敷わらしの方は単純に微妙だった。完全にただの子供が走り回っているだけだった。もしかしたらスタッフの子供か何かを出演させているのかもしれない。
「座敷わらしもひどいよ! あんな子供じゃないし!」
「いや……、前にも言ったが、普通は座敷わらしっていうと子供だと思うぞ……」
その後も話題は尽きず話は続いていく、出来の悪い部分や突っ込みどころなんかも、実はこうやって会話を楽しむために残してあるのかもしれない。出来の良さを褒めるだけというのも面白くないだろうしな。
俺と霞のスマートフォンから新着メッセージを伝える通知音が同時に響く。メッセージを確認するまでも無くわかる。雪さんが部屋に着いたのだろう。
「雪さん、もう着いたって」
「寿司でも買って帰るか」
久しぶりの霞との外出で少し名残惜しいところではあるが、長旅で着いたばかりの雪さんを放っておくわけにもいかない。
夕暮れ時が迫る中、寿司を買って部屋に戻ると、なぜか大輔さんが一人でインターホンを連打していた。
「あら、コタローちゃん。出かけてたのねえ」
「どうかしたんですか?」
「たまたま通りかかったら荷物が置いてあったから。お客さんがここまで来ることは滅多にないけど不用心よ」
大輔さんの言う通り、雪さんのものらしき荷物はおいてあるが本人の姿は見えない。「すみません、気を付けます」というと、大輔さんは開店準備をするために店の方へと降りていった。
「あれえ? 雪ちゃんどこへ行っちゃったんだろうねえ?」
「荷物置きっぱなしだしな……」
「いえ、ここにいますよ。さっきの人? 妖怪? が怖くて隠れてました」
雪さんの声がしたかと思うと荷物の側に忽然と姿を現した。聞いていた話では雪女は実体を持っていて人間とそう変わらないのではなかったのか。
「それは……。こうやって」
「雪ちゃん消えちゃった!」
俺の質問に答えるように一瞬で雪さんの姿が見えなくなる。しかし、よく目を凝らしてみるとわずかに雪さんの立っていた場所の空気が揺らいでいるように見えた。
「つまり、どういうことなんだ?」
雪さんの説明によると、なんでも空気中の水分を凍らせて隠れているらしい。要するに光学迷彩のような、あるいはマジックミラーを使った手品のようなものという事だ。
「すごいすごい!」
「ああ、本当にすごいな」
褒める俺と霞に対して、雪さんは「でも、欠点もあるんですよ」と言う。その欠点というのは、三六〇度すべてをカバーできるわけではないという事と、氷を使う関係上どうしても後に水が残るという事だった。
「なるほど、雪女の伝承で消えた後に、水や氷が残ってるって話が多いのはそういうことか……」
そう言いながら俺は。なんだかマジシャンが種明かしをした時のに感じる、嬉しいような悲しいような気分になるのだった。
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