第21話 オフィス選び
治りかけていた風邪をぶり返してしまったので、明日は一話のみになるかもしれません。
今日は朝から出かける予定になっていた。理由は急激に仕事が増えて人を雇う必要が出てきたのでオフィスを借りる為に何か所か見学しに行くのだ。
「霞、まだか?」
「ちょっとまってえ、あと三匹だけ!」
「さっきはあと二匹っていってただろ! 増えてんじゃねーか」
霞は最近なんとかいうオンラインゲームはまっているらしい。もともと出不精で出たがらないというのに、さらに引きこもり体質が悪化するんじゃないのかと心配になる。
待っている間に忘れ物がないかチェックするが、必要になるものはすべてそろっている。あとは鬼も忘れないようにポケットに入れておかないとな。我ながら普段の持ち物に鬼が入ってるのは変すぎるよな。
「見極めてやる。とか言ってたけど中から外の様子がわかるものなのか?」
箱をいじりながらつぶやいていると、「手に取るようにな」と返事がしてあわや箱を取り落としそうになる。いきなり声をかけてくるなと抗議したいが、箱なんだし他にやりようがないな。話す前に呼び出し音でもなってくれれば便利なのだが。
「小太郎ごめん……。お待たせだよ」
「その服は初めて見るな。でも良く似合ってるぞ」
これはお世辞ではない、ゆったりとしたワンピースの白と、つばの広い帽子から伸びるみどりの黒髪の対比が美しい。とても数分前までジャージ姿でゲームしていたとは思えない変わりぶりだ。
三か所のオフィスを見て回ったのだが、高橋さんの手回しが完璧だったおかげで午前中に用事は終わってしまう。高橋さんに電話で気に入った物件を伝えて手続きを進めてもらうようお願いする。
「用事は全部おわり?」
「そうなるな」
「じゃあ、行ってみたいところがあるんだけど……」
昼食もそこそこに向かった先は、仮想空間を肌で体験できるという、VRを売りにしたエンターテインメント施設だった。かなり人気のある施設らしく、平日の昼間だというのに順番待ちに並ぶ必要があった。
「こんな施設ができてたんだな」
「情弱だねえ、小太郎は……。説明してあげるよ」
どや顔で霞が語たりはじめる。なんでもゴーグルに映し出されるバーチャル空間だけや音響だけでなく、ミストや風をはじめとして各種の装置も駆使していて、本物としか思えない体験ができると話題になっているらしい。
「でも、ここじゃSNS映えする写真とれないんじゃないのか?」
「あー……。あれはもうやめたんだよねえ……」
雪さんの里から帰った後の未読通知の山に辟易して、自分には必要ないと辞めてしまったらしい。霞の言葉を聞いて俺は、やはり電波の届かない宿はアリだと確信する。
そんなことを話しているうちに俺たちの順番がやってきた。SF・西洋ファンタジー・戦国怪異と三つのコースがあるのだが、霞が選んだのはなぜか戦国怪異だった。
本物の妖怪が作り物の怪異を見て何が楽しいのか、バーチャルではない鬼だってポケットに入っているのに。そんな俺の考えを読んだかのように霞が言う。
「このコースが、一番人気らしいんだよ」
「なるほどな」
係員に手渡されたリュックを背負い、ゴーグルとヘッドホンを装着すれば、そこにはもう戦国時代の戦場が広がっていた。
俺たちが立っているのはにらみ合う両軍の真ん中だ。直後両軍の騎馬隊が突撃を開始する。馬蹄の音が地響きとなって迫ってくる。バーチャルだと分かっていてもつい身がすくんでしまう。
霞も驚いたのか俺の腕にしがみついてきたが、ゴメンと言ってすぐに離れる。見ると霞の姿はアバターとして表示されていて結構な美少女姿になっている。俺の姿も同じく美青年なのだろう、確かにこれは少し気恥しい。
先に進んでいくたびに色々と場面が切り替わり話の筋が明らかになっていく。最初の戦場で討ち死にした若い武将が怨霊となって、彼の帰りを待つ姫のもとへと戻ろうとする。
その旅の途中で色々な妖怪や仙人たちに、ある時は邪魔をされまたある時は助けられ……。
「もうすぐ姫に会えるよ! 小太郎」
早く結末を見たいのか、せかすように霞は俺の手を引っ張っていく。
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