第20話 鬼の箱
朝と夕方を目安に更新していきます。
数日ぶりに戻ってきた部屋は、相変わらずクリスマスツリーだの南国の書割だのと、相変わらず季節感はでたらめだったが落ち着きを感じる。いつの間にやら随分と馴染んでいたらしい。雪さんはしばらく里に戻るとかで別行動だ。
株や証券類のチェックは後に回して、高橋さんに打ち合わせの電話をかける。この人は超やり手の不動産開発スペシャリストで、今回の計画をすべて取り仕切ってくれることになっている。
あっというまに解体業者やら設計事務所の選定などが終わり電話を切る。優秀な人と仕事をするのは本当に楽だ。こんな凄腕の人物を紹介してくれた大輔さんの謎人脈には感謝しかない。
証券類の取引も終わり、一息ついた俺は住職がくれた箱の事をネットで調べる。そこへ霞が珈琲を淹れて戻ってきた。
「それが鬼の箱なの?」
「うん、中の鬼について調べてるんだが、さっぱり検索にかからないんだよな」
検索ワードを調整しつついろいろと調べているのだが、箱の中身と関係ありそうな伝承や伝説は一切出てこない。名前すら言い伝えに残っていないというのはどういうことなのだろうか。
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。楽しみだねえ」
「え? 確定で鬼だろ? 書いてあるじゃないか」
俺には書いたばかりのように鮮やかな墨跡で「鬼王 金剛丸」と書かれてるのが見えるのだが、霞にはこの文字が見えないらしい。
「なんて書いてあるの?」
「きおう? 鬼王? 金剛丸って」
俺がそう口にしたところで、箱はうっすらと白い光を放ち始める。どうやら名前を読むのが呼び出す呪文を兼ねていたようだ。
「虹じゃないね……、小太郎ドンマイだよ」
「ガチャ演出じゃねえよ!」
光はほどなく収まったが、かわりにもくもくと白い煙が箱から噴き出しはじめた。やがて煙は一か所に集まり鬼の姿を形作っていく。煙が収まり視界がはっきりした時には身長四メートルはあろうかと言う巨大な鬼が出現していた。
その肌は赤銅色で無駄な脂肪が一切なく、鍛え上げられた筋肉に直接皮膚を張り付けてあるかのようだ。両腕に嵌めている黒光りする鋼の腕輪が動くたびにガチャガチャと重そうな音を立てる。
突き出た二本の角の下でカッと見開かれた目には、激しい怒りが浮かんでいるようにも見える。大きな牙の生えている口から鬼の言葉は低く響く。
「このように狭い場所でワシを呼び出すとは……、なかなかに小癪な事を思いつく法師のようだが、そう簡単にワシを倒せると思うでないぞ」
「いや……、別に争うつもりはないんだが……」
本来なら恐ろしくて震え上がってしまうような場面なのだろうが、頑丈で狭い部屋のせいでいわゆる体育座りのポーズになっていて迫力がない。
「では、なんのために呼び出したというのじゃ」
俺は箱を手に入れた経緯と箱の由来について教えてもらったことを説明する。
鬼は額から生えた角に引っかかっているクリスマスツリーのモールを、面倒くさそうに引きちぎりながら言う。
「で、俺たちに力を貸してもらえるのか?」
「なぜワシがそんなことをせねばならんのだ?」
鬼の言う事は正しい。どういう事情で箱に封印されているのかは分からないが、だからと言って俺たちに力を貸す理由にはならないだろう。
「その通りだな忘れてくれ。じゃあ箱に戻すにはどうすればいいんだ?」
「何をかんがえておる……。箱をどうこうしようとしても無駄じゃ」
「別にどうもしないさ。嫌がるものを無理強いする気はない。それだけだよ」
鬼に聞いた方法を試すと、鬼の体はじょじょに煙となって箱へと吸い込まれていく。最後に鬼は「箱を常に持ち歩くが良い。見極めてやろう」と、言い残して消えた。
「気が向いたら力を貸してくれるってことか?」
「多分そうだよ。よかったね小太郎」
霞はほほ笑みながらそう言ったが、鬼が消えた後の惨状をみるととても「よかった」などとは思えない。クリスマスツリーはぐちゃぐちゃになっているし、書割の一部も壊れてしまっていた。これを片づけるだけで半日はかかるだろう。
「大輔さんに怒られるのは俺なんだぞ……。勘弁してくれ」
ローファンタジージャンルにて、日間3位に入りました!!
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