第19話 リモコン隠し
朝と夕方を目安に更新していきます。
「小太郎様、私は今夜のうちに里へいって、報告をしてこようと思います」
雪さんはそういうと、一人で雪女の里へと行ってしまった。どんな場所なのか見てみたかったが、里の総意を得ないと招くことはできないのだと断られた。
二人になったあと、霞と宴会に出された料理について話していた時、少し変わった出来事がおこった。
「ヤマメ美味かったなあ……。自分で釣って食べられるなら最高だろう」
「あれえ? わたしのスマホさんは、どこへいっちゃったんだろうねえ?」
俺の言葉など聞こえないかのように、霞は荷物をひっくり返しながらスマートフォンを探しはじめた。どうせ電波は届かないというのに手元にないと不安になるらしい。
目の前にあるじゃないか、と言いかけたところでソレの存在に気付く。霞のスマートフォンの上に胡坐をかいているのは、身長二十センチほどの小さなおっさん。
俺は探すのを手伝う振りをして近づき捕まえてみる事にした。我ながら最近人外慣れしてきたなと思う。
「お、捕まえたぞ。なんだコイツ」
「何しやがる放せ、この野郎!」
ジタバタと暴れる小さなおっさんは、緑色の服にとんがり帽子をかぶっている。洋風の家の庭に置いてある人形みたいな姿だ。
「あ、これリモコン隠しだよ!」
「ふうん、リモコン隠しっていうのか。どんな妖怪なんだ?」
霞の説明によればリモコン等の小物を隠す、どちらかというと妖怪というより妖精に近い存在らしい。
「隠すだけなのか?」
「そうだよ! いたずらして何が悪い!! さっさと放せよバカヤロウ!」
襟首をつかまれているリモコン隠しは、暴れるのはあきらめたようでおとなしくなった。観察を続けながら呆れて言う。
「霞が困ってる姿を見るのが楽しかったのか? 陰キャだな……」
「ほんとうにそうだよ」
この後どうするべきか悩んでいると、小さなおっさんは「何でもするから許してください」と泣き始めた。面倒くさくなった俺は、そのまま逃がしてやることにした。
「やっぱり小太郎の力はすごいね。わたしは全然気づかなったよ」
またそれか……、安太郎もそんなことを言ってたし、雪さんにも似たような事を言われた気がする。だが俺は霞と出会うまでは一度も心霊現象的なものを体験した事などなかった。
これまでの人生で俺は、不思議な影などを見たこともなければ、金縛りのような事も体験した事はない。どちらかと言えば、心霊発言をする連中はただの目立ちたがり屋か病気だと思っていた。
もし本当に俺に強い力があるのだとしたら、なぜなのかいつからなのか全く分からない。思い当たることはないかと霞に聞いてみても、やはり理由は分からないと言うだけだった。
翌朝、朝食中に住職が俺と二人で話したいことがあるから時間をくれと言ってきた。霞と朝早くに戻ってきた雪さんに帰り支度を任せて、住職と本堂へと向かう。
「あの氷山さんという方、人間ではありませんよね」
「どういう話だ?」
警戒する俺に対して住職は、「そう怖い顔をしないでください」と手を振って続ける。
「この辺りには、雪女に関する伝承が多く残っているのですよ。氷山さんは物語の中に出てくる雪女たちにそっくりですからな」
「で、なにが言いたい?」
「申し訳ございません、本題に入りましょう。実は久世様に受け取っていただきたいものがあるのです」
住職は本尊である仏像の手のひらに乗っている小さな箱を手に取る。それを丁寧に持ち直し俺に差し出す。
「この箱を受け取れと?」
住職が言うには、箱の中には都で暴れていた大鬼が封印されていて、力が強いものが持つと鬼を呼び出して使役することができるという。
鎌倉時代に、旅の法師がその鬼の力を使って建立したのがこの寺だ、と。
「そして、いつの日か雪女を伴ってきたものに箱を渡すように。寺に残る言い伝えです」
この箱に本当に鬼が入っていて俺たちの力になってくれるというのなら、戦力の欲しい俺たちにはねがったりかなったりだ。これも霞が招いた幸運の一つなのだろうか。
「久世様、受け取って頂けますかな?」
手に乗せた箱をじっと見つめている俺に住職は問いかける。返事は決まっている。この箱がただのガラクタで鬼なんて入って居なくても損をすることなんてないのだから。
「ありがたく頂いておきます」
余談だが、その日の昼頃に帰ろうとしたのだが住人たちの引き留めにあってしまって、もう一晩宴会に付き合わされ、帰るのが一日遅れる羽目になってしまった。
俺はこういった田舎のノリは嫌いではないが、霞はスマートフォンを使えない時間が延びた事に不満をもらしていた。
ローファンタジージャンルにて、日間3位に入りました!!
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