第18話 住民集会
朝と夕方を目安に更新していきます。
感想を参考に少し改稿しました。内容は大差ありませんが……
寺の本堂に集まった住人は十数人。全員が還暦は軽く超えているようで集落の過疎化が手に取るようにわかる。
「それでは、わが社の開発プランを説明させていただきます」
廃墟のような巨大な施設は景観を崩すだけだから完全に取り壊す。代わりに風景になじむ古民家スタイルのコテージを複数作る。もちろん全ての建物に個別の露天風呂を作る。
もちろん客に出す食事にもこだわって、集落で採れた素材だけを使ってコテージに備え付けの囲炉裏で作る予定だ。
他にも元からある小川を活かした養殖場兼釣り堀など、できるだけ自然を生かした施設を作り、素朴だが上質な田舎暮らしを体験してもらう予定だ。
携帯電話の電波が届かないことだってマイナスではない。むしろ売りになるはずだ。
説明を終えたところで拍手を送ってくれるのは、住民を集めるのに一肌脱いでくれた寺の住職だけだった。他の住人たちは俺たちを睨みつけるばかりである。
俺はため息をついて雪さんにバトンタッチする。
「私は北欧の小さな国の出身ですが、こことよく似た風景の村で生まれ育ちました」
この設定は昨日俺たち三人で考えたものだ、この近くの出身だというには無理のある見た目だから仕方がない。
雪さんは熱く語る。
この美しい風景を壊す廃墟を見て心が痛んだと。
ふるさとに似た風景をもつこの場所を守りたいと。
厳しい冬を超えて、雪の中に芽吹く草木が好きだと。
短い夏に必死に咲き誇る花たちの美しさを。
だから自分たちに開発させてほしいと。
雪さんが語り終えたとき、しかし、拍手を送るのはやはり住職一人だった。
周囲の人に「いい計画じゃないか、なにが不満なんだ」と言う住職に対して、住民たちは固い表情を崩さない。やがて住人の一人が口を開く。
「言いたいことは分かった。だが、あんたらがまた途中で放り出さない保証がどこにある?」
それを聞いた住職が「住人たちだけで話し合いたいから」と言うので、俺たちは部屋へと戻って、住人たちの話し合いの結果を待つことになった。
「雪さん、すまない。後は住職に任せるしかないな……」
「いいえ、私の言葉に説得力がなかったのです……」
雪さんの瞳はとても悲しそうな色をしていた。霞は雪さんの肩を抱いて慰めている。重苦しい雰囲気の中そのまま三人とも沈黙する。
本堂の方からは住職が大声で必死に説得する声と、反発する住人たちの怒鳴り声が響いている。住職は頑張ってくれているが、雪女の里を別に作ることも考えておいた方がいいかもしれない。
それから一時間ほどして、本堂のほうが静かになったかと思うと、住職が住民の代表だという男を連れてきた。
「何とか説得いたしました。話を聞いてやってもらえますか?」
住民の代表だという男は先ほど保証云々と言ってた男だった。
「是非ともあの土地を買って綺麗にしてもらえますか? ただ、一つだけ条件を付けさせてもらってよろしいでしょうか?」
代表の男が口にした条件とは、契約内容に「事業失敗時に元に戻すための費用を積み立てる」という事を加えて欲しいというものだった。都合のいい条件だとは思うが失敗するつもりはないし、証券類で用意すれば大きな影響はないだろう。
そこから話がまとまるのに時間はかからなかった。そして、話がまとまればやることは一つだ。
「久世さん、これも食べてみてください。どうです? うまいでしょう」
「氷山さんも、ほらほらググっと一献」
既に寺の本堂は宴会場になっていた。住民たちは各々いろんなものを持ち寄って、俺たちを下にも置かぬ歓待ぶりでもてなしてくれる。本来の彼らはこういう温かい人たちなのだろう。
「本当においしいな、これは宿の売りになるな」
勧められる料理は、どれも初めて食べるというのにどこか懐かしさを感じる味だった。
ローファンタジージャンルにて、日間3位に入りました!!
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