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第15話 悪行

朝と夕方を目安に更新していきます。

 大輔さんと入れ替わるように、霞と氷山さんが部屋に戻ってきた。いくら何でもタイミングが良すぎる。屋上へは行かずに部屋の前に居たのだろう。もしかしたら俺と大輔さんの会話も聞いていたのかもしれない。


 霞はいつもの能天気な表情ではなく、あの街角で初めて会った時のような少し硬い表情で俺を見ている。こういう表情も美しいが、やはり霞には能天気で明るい表情の方が似合っている。


「なあ、霞が前に居たのは鳳来って家で間違いないのか?」


 俺の予想は当たっていたようで、霞はすこしおびえたような表情を浮かべつつ静かに頷く。霞にこんな表情をさせる連中だ、話を聞くまでもなく悪党なのは間違いない。


「氷山さん、わざわざ来てくれたのにすまないが明日にでもまた出直して――」


「小太郎様! 鳳来というのは、鳳来亘胤(のぶつぐ)の家で間違いありませんか?」


 氷山さんは驚くほどの勢いで質問してくるが、俺は大輔さんから鳳来という家の名前を聞いただけで詳しいことはまだ何も知らない。


 助けを求めるように霞の方に視線を送ると、霞が俺の代わりに氷山さんの質問に答えてくれた。


「確か何代か前の当主が亘胤だったよ」


「やはりそうですか……。それならば私にも無関係という訳ではありません。鳳来と事を構えるというのであれば、是非私も仲間に加えていただけませんか?」


 そう言う氷山さんの表情には並々ならぬ覚悟が見て取れて、どうやら相当な事情があるらしいことが伝わってくる。こちらとしても戦力が増えるのは願ってもないことだし、断ることはいつでもできる。


「ふうん、氷山さんにも事情があるようだな。聞かせてもらおうか」


「はい、もちろんです。ですが、それを説明するためには、雪女と私の里について知って頂く必要があります」


 俺と霞は氷山さんの語る雪女の物語に耳を傾ける。


――人間と恋仲になって子をなしたという伝承もありますように雪女というのは、限りなく此岸しがんに近いものなのです。人などよりははるかに長いとは言え寿命にも限りがありますしね。


 私の里はそんな十数人の雪女たちが、細々と農業などをしながら暮らしている退屈だけど平和な場所でした。


 忘れもしません大戦の前、その年初めての雪が降った夜の事です。一人の男に率いられた軍人と術者の集団が私たちの里を襲ったのです。


 もちろん、私たちが討伐されるような何かをしたわけではありません。ただ、見た目の整ったものが多い雪女を、裕福な外国の貴族に奴隷として売るという目的のためです。


 混乱の中、母様は私を雪の中に隠したあと、あの者たちを相手に最後まで抵抗し殺されてしまいました。


 同じ人間を鳳来様と呼ぶものと、亘胤のぶつぐ様と呼ぶものが居ました。ですからあの男の名前は鳳来亘胤で間違いないでしょう。返り血を浴びながら、この女たちは高く売れそうだと卑しく笑っている表情が瞼に焼き付いてます。


 あの者たちが去った後に残ったのは、無残に殺された者達の死体と年老いた雪女が数人。それと私だけでした。


「と、いう訳です。後生ですから母様の無念を晴らす機会を与えていただけませんか?」


 戦国時代に一部の大名が奴隷として領民を売ったという話は聞いたことがあるが、実際に話を聞くとかなり衝撃的だ。


「なるほど、事情は分かった。しかし、まさか氷山さんまで話を聞いていたとは思わなかった。この部屋の壁はかなり厚くかなり大声で話しても外に音が漏れるはずはないんだが、それもやはり妖怪の能力なのか?」


「そこの氷を通して聞きました」


 そういってテーブルに乗ったグラスに浮かぶ氷を指さす。なるほど雪女らしい方法だな、雪の中に埋もれていながらも色々覚えているのもこの力のおかげなのだろう。


 氷山さんは俺の返答をじっとまっているが答えは決まっている。戦力は一人でも多い方がいいし、恨みのある彼女なら裏切ることもないだろう。


「もちろんだよ雪ちゃん! わたしたちと一緒に鳳来をやっつけよう」


 俺の代わりに返事をしたのは霞だった。

ローファンタジージャンルにて、日間3位に入りました!!

ブクマと評価をしてくださった皆様のおかげです!! ありがとうございます!!


十万字迄はなんとか一日二回更新を維持していきたいと思います。


いつまで居続けられるかはわかりませんが、

もしよろしければまだの方は、ブクマや評価などで応援して頂ければめっちゃうれしいです……

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人類最強の暗殺者と史上最弱の勇者
今までの作品とは雰囲気が違いますが、楽しんでいただければなあと思います。



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