第14話 不穏
朝と夕方を目安に更新していきます。
大輔さんのセリフを一つ修正しました。
安太郎はそのうち訪ねてくるモノがいるかもしれないと言っていたが、意外にも早くその時は訪れた。俺と霞と向かい合うように座って居る女性がそうだ。
「はじめまして、氷山 雪と申します。相談に乗って頂きたいことがあってここまで来ました」
透明感があるがはっきりとした声で名乗る。雪さんは銀髪といっても差しさわりの無いプラチナブロンドの髪と、透き通るような青い光彩をもっていた。いわゆる雪女というやつだ。
「聞くだけは聞くが、どうなるかは保証できないぞ?」
「もちろんです。とにかく話を聞いてください。私は雪女の隠れ里に住んでいるのですが……」
数十年ほど前に隠れ里の近くにリゾート開発の話が持ち上がったらしい。それ自体は問題がなかったらしいのだが、よくある話で一気に景気が冷え込んだ事で開発計画は頓挫。建設途中のホテルなどの建物がそのままになっているらしい。
「廃墟になってるなら問題ないんじゃないのか?」
「それがですね。近頃では廃墟マニアとか呼ばれる人たちがいるようでして……」
「ああ! いるいる! フォロワーさんにも廃墟めぐって写真あげてる人いるよ」
ほらほらといって霞がスマートフォンの画面を見せてくる。そこには崩れかけの廃墟の写真がいくつか表示されていた。
「そうやって写真を撮るだけなら良いのですが、勝手に焚火をしたりするのが困るのです。つい先日もボヤ騒ぎが起こりましたし、山火事にでもなろうものなら……」
廃墟の場所をネットで調べてみると、幹線道路からも遠いし鉄道もろくに通っていない山ばかりの場所だった。さすがにこれは開発を始める前に採算とれないと思わなかったのだろうか。
「あら、今日は珍しくお客さんがきてるのね。霞ちゃんちょっとコタローちゃんと二人で話をしたいから席を外してもらえない?」
「じゃあ、わたしはゆきさんと屋上にいるね」
有無を言わせない大輔さんの様子に押されたのか、霞と雪さんはあっさりと席を立って外へと向かう。
「すまないな霞ちゃん。小太郎、鳳来って名前に聞き覚えはあるか?」
大輔さんのほうらいと言う単語に、部屋を出ていく霞の表情が一瞬曇るのが見える。どうやら霞はその名前に聞き覚えがあるようだな。
「蓬莱と言うと、あの徐福伝説の?」
「そうじゃない、鳳凰が来ると書いて鳳来だ」
どうやら人の苗字のようだが俺は聞いたことがないと伝えると、大輔さんは「思い違いだと良いんだが……」と前置きしたあとで続ける。
「その鳳来っていう奴なんだが、極道をあごで使うような悪党でな……」
極道だけでなく警察にまでパイプを持っているらしく、裏社会では知らない人間はいない位に有名らしい。
「かなり必死に人をさがしていてな。手配の内容を聞いていると、どうも小太郎と霞ちゃんの事じゃないかと思えてな。心当たりないか?」
「うーん……。さっぱりわからないな」
これは嘘だ、心当たりはある。おそらく俺と出会う前はその鳳来という家に霞は居たのだろう。名前を聞いた時の反応からして間違いないはずだ。
大輔さんは暫くの間じっと俺の目を見ていたが、ふと表情を緩めて笑う。
「心当たりがないならいいわ。そういう風に答えておくわ。おじゃましたわね」
いつもの様子で大輔さんは言うと、俺の耳元で「もっと上手に嘘をつけるようにならないと早死にするぞ」とささやく。
席を立って帰ろうとしたところで、大輔さんは俺に紙袋を押し付けてくる。
「ああ、そうだ忘れてた。これを渡しておくわね」
「なんです? これ」
「アタシ、コタローちゃんの事を結構気に入ってるからね。ちょっとしたプレゼントよ」
訳も分からず受け取ったずっしりと重い紙袋の中をのぞく。そこには国内では警察官とか自衛官とか以外は持ってちゃいけない黒光りする鉄の塊が入っていた。
「こんなもの要らん!!」
「これから物騒になるかもしれないから、もっといた方が安全よ?」
「物騒なのはあんただよ!!」
警察まである程度自由に動かせるような相手だったはずだ。こんなもの持ってたら逆に簡単に網にかかってしまうだろう。
突き返した紙袋を受け取った大輔さんは、「もっとスゴイのもいっぱいあるから、必要になったらいつでも言ってね」と言い残して帰っていった。
これは霞に色々と話を聞く必要があるな。
ローファンタジージャンルにて、日間4位に入りました!!
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十万字迄はなんとか一日二回更新を維持していきたいと思います。
いつまで居続けられるかはわかりませんが、
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