第13話 風のうわさ
朝と夕方を目安に更新していきたいと思います。
会社化したことで幸運を呼ぶ力の効果がどうなるか不安だったが、問題なく利益が出続けている。社員が俺一人の会社は家と同じ扱いでいいようだ。
面倒な客を避けるために、会社のオフィスはバーチャルオフィスを借りたし、電話の対応は専門会社に任せた上に郵便関係はすべて私書箱にまとめた。おかげで快適な日々を過ごすことができている。
「小太郎お疲れさまだよ。珈琲入ったよ」
「ありがとう」
株式市場の後場も終わったし、霞が淹れてくれた珈琲を飲みながらゆっくりとこれからの事を考える。今のところは証券類の取引が主な投資だが、運用可能な資産が凄い勢いで増えているし、そろそろ別の事業を始めるべきかもしれない。
なんにせよ今日の仕事ももう終わりだ。日用品の買い出しは俺の分担ということになっているから出かける準備をする。
「もう少ししたら夕食の買い出しにいくけど、何を買ってくればいいんだ?」
「うーん、まだメニュー決めてないんだよねえ……。小太郎は何か食べたいものある?」
急に食べたいものと言われても意外と思いつかないもので、最近食べたものを思い出しながらあれこれ考える。メニューにしろ買い物にしろ、悩んでいる間が一番楽しいのはなぜだろうか。
夕食のメニューについて霞と話し合っていると、不意に呼び鈴がなったので対応にでる。やってきたのはいつもの通販の荷物ではなく河童の安太郎だった。
「いろいろ落ち着いてきたんで、改めてお礼を言いにきたんですわ」
安太郎が手土産に持ってきたのは自分で捕まえたのだという鮎だった。それを見た霞は「美味しそうな鮎! これで夕食のメニューは決まったね」とキッチンへ持って行ってしまう。
料理の腕をあげた霞はメニューの幅をどんどん増やしているから、鮎がどんな料理になって出てくるのか俺にはもう想像もつかない。
「それはそうと安太郎、なんだか顔色がよくなった気がするな」
河童の顔色というのも変な話だが、あの時の安太郎は今と比べると確実に顔色が悪かった。今の新鮮なきゅうりのような色ではなく、緑は緑でももっと青みがかっていて気味の悪い色だった。
「やっぱり分かりますか? 最近はヌメも出なくなって調子がええんですわ」
「魚臭いのは相変わらずみたいだけどな」
「それは元からですわ」
ふと思ったのだが、安太郎も戦力として考えていいのだろうか。力が必要になった時に手伝ってもらえるのかと聞くと、安太郎は「もちろんですわ。死ぬ気で頑張りまっせ」と答えてくれた。
「それは心強いな。ところで、河童っていうのはどういう事ができるんだ?」
「そうですなあ……。 相撲はめっちゃ得意です。あと、魚を捕まえるのも得意ですわ。その他の事はちょっとなあ……」
力をかしてくれるという気持ちは嬉しいが頼る事は無さそうだ。俺が倒そうと思っているような連中相手に、相撲や魚とりが必要になる局面があるとは思えない。
「ちょっと! わかりやすくガッカリするのはやめてくれまへん?」
笑っていると霞が戻ってきて、夕食のメニューが決まったから足りない材料を買ってきてくれと言う。
「あの鮎は結局どうするつもりなんだ?」
「鮎ご飯と塩焼き、それに万願寺唐辛子の味噌汁だよ。美味しそうでしょ?」
メニューを聞いて食欲がわいてきた俺は、川へ戻るという安太郎と連れ立って部屋を出ていそいそと買い物へと向かう。
少し歩いたところで安太郎が急に変った事を言い出した。
「小太郎さんの事が風に噂されてますなあ」
「どういう意味だ?」
「え? 小太郎さんは、そんなに力が強いのに聞こえまへんのか?」
安太郎に説明してもらって耳を澄ましてみると、ただの風音だと思っていたものの中に話声らしきものが確かに混ざっているのがわかった。
神経を研ぎ澄ましていくとだんだんはっきりと聞こえてくる。感覚的には雑音だと思っていたのが、実は外国語の会話だったのに近いと言えばわかりやすいだろうか。
「内容はともかく、女子高生みたいな口ぶりがイラっとするな……」
「噂好きの風達は、性質的に若いおなごに似てますからな。いつもその時の流行り言葉で話してますわ」
それが本当なら千年前の風は「いとをかし」などと言っていたのだろうか。
「これからは噂を聞いたモノたちが、小太郎さんを頼ってくるようになるんでしょうなあ」
だが、その噂を聞いていたのは妖怪たちだけではなかった。
相撲で解決……
安太郎の相撲に出番はあるのでしょうか?
江戸時代にあった大名のお抱え力士同士の取り組みのような場面があればワンチャン⁉
ローファンタジージャンルにて、日間4位に入りました!!
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十万字迄はなんとか一日二回更新を維持していきたいと思います。
いつまで居続けられるかはわかりませんが、
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