第11話 計画
これからやろうとしていることを霞に説明する。
「それって結局は困ってる人を助けるってことじゃないの?」
「全然違うぞ。人助けなんてするつもりもないし、そもそも出来ない」
たとえどんなに助けたくても本人に助かるつもりがなければどうにもならない。溺れている奴にロープを投げてやっても、相手にそれを掴む気がなければ助かることはない。だから俺は誰も助けない、ただ理不尽な事を押し付けてくる奴をぶっ潰すだけだ。
「そういうわけだ。霞、やらせてもらってもいいか?」
「いいと思うよ? でも、どうしてわたしにお願いするの?」
「そりゃ、霞の家が栄えるっていう力を利用して好き勝手にすることになるからな」
霞は俺を軽く抱きしめると、「小太郎はいい子だねえ」と言いながら優しく頭を撫でる。人に頭を撫でられるのなんていつぶりだろう。霞は女子高生でも通せそうな見た目だというのに、なぜだか俺を引き取ってくれたばあちゃんを思い出す。
「いい子って……。俺ももう三十路だぞ……」
「えへへ。わたしはこう見えても小太郎よりずっと長生きだからねえ」
やわらかくて暖かい感触に包まれながら、俺は安太郎の言っていたことを思い出す。霞は座敷わらしなんていう生易しいものではなく、実はもっと恐ろしい大妖怪で、そしていつか俺の命を奪うのかもしれない。
だが、引き換えに俺は人生で初めて誰にも遠慮せず自分自身のわがままを通すチャンスを得たというわけだ。ならば何も迷う必要なんてないだろう。
――
理不尽を押し付けてくる連中というのはそれをやるだけの力を持っている。それは暴力だったり金の力だったり権力だったりと形は違っていても同じことだ。
対抗するためには俺自身が相手以上の力を手に入れる必要がある。その為にも霞の能力をしっかり理解しておく必要がある。
数週間かけて色々調べた結果、霞の力の及ぶ範囲がだんだんとわかってきた。
例えば、宝くじでも当選本数の多い賞金金額が低めのものは当てることができるが、年末などにやっているような超高額のものは当たらない。それに連続して当たることもないようだ。
株なんかは割と何を買っても大体大丈夫だが、既に上場廃止が決まっているような株を試しに買ってみても奇跡のV字回復なんて事は起こらない。それに、競馬場に捨てられている馬券を拾ってみてもそれが当たってるなんてこともない。
つまり、すでに確定済みの事柄を書き換えるような事は出来ないらしい。
なんとなくわかってきたのは、人に話して「すごいな」と言われるくらいのレベルなら大丈夫で、「嘘でしょ」と言われるような事はどうにもならない。他人がどう評価するかというのが基準になっているようだ。
どうしてそんなことが分かったというと先週の事を説明する必要がある。
いつものように株の取引をしながら霞の能力を確かめていた時の事だ。これまたいつものように大輔さんが用もないのに部屋にやってきた。
「コタローちゃん、今日もまたパソコンで株やってるの? 好きねえ」
「好きっていうか、今の俺にとっては仕事みたいなものなんで」
大輔さんはそのあと放置気味になっている証券口座の相談を俺に持ち掛けてきた。どうやら俺が投資で稼ぎまくってるのを見て便乗したくなったようだった。
「どの銘柄がおすすめなの?」
「このあたりかな。来週には全部売るつもりだから、そのくらいまでには手放したほうがいいと思う」
その日仕込んだばかりの銘柄をいくつか指し示す。どれも買ったばかりでほとんど値段の動きはない。今から買っても十分利益があるはずだ。熱心にメモを取っていた大輔さんが聞いてくる。
「あら、含み損が出てる銘柄もあるのね。でも、コタローちゃんが買ってるならきっとこの先上がるんでしょうね」
「さすがにこれは無理だと思う」
指摘された銘柄は、霞が来る前から持っていた銘柄で業績がとんでもなく悪くて、とてもじゃないが上がる見込みなんてなかった。
損切りせずに持っていたのは、よく調べずに買ってはいけないという自分への戒めでしかない。のだが、翌日その会社の特許が公開になってストップ高をつけた。
他人から「小太郎ならやるだろう」と、信頼されれば多少の無茶でもふりそそぐ幸運でなんとかなる。霞の能力はとんでもなく強い力だった。
ローファンタジージャンルにて、日間7位に入っています!!
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いつまで10位内に居続けられるかはわかりませんが、
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まだまだ毎日更新していく予定です。