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第01話 久世小太郎

新作です。よろしくお願いします。


6/19 氷山 雪さんのルビ間違えていたので修正しました。

 季節は初夏。最近めっきりと強くなってきた日差しについ足は自然と早くなる。


「おい! お前、久世小太郎じゃないか?」


 俺を呼ぶ声につい足を止め振り返る。そこには予想通り、二度と顔を見たくないリストのトップスリーには確実に入っている人物が立っていた。


「なんだお前。そんな恰好で平日の昼間からうろついてるのか」


「ええ……、まあ……」


 こいつは前にいた会社で、俺の上司だった男だ。経営者一家の血縁というだけが取り柄でパワハラ・セクハラ・モラハラなんでもござれで俺を含め部下全員から嫌われていた。


「まさかお前、まだ再就職できてないのか?」


 昼間から私服でうろついている元部下、ストレス発散の獲物を見つけたと思っているのか、ニタニタと下卑た笑みを浮かべている。だが、そんなものに付き合う義理はない。


「約束がありますので。これで」


「おい! まて久世!!」


 結構な速足で歩いているのに、おっさんはグダグダ喚きながらしつこく追いかけてくる。まああと少しで目的地だし、さすがに建物の中にまではついてこないだろう。俺はビルのエントランスへと向かって足を速める。


「おい久世!待てと言ってるだろう」


 言いながらおっさんは俺の手首をつかむ。その手には獲物を逃がすまいとするかのように強く力が込められている。


「なんですか? 離してください」


「お前ここがどんな会社かわかってるのか? こんな大企業がお前のような役立たずを雇ってくれるわけないだろう」


 おっさんは俺の手首を握る手を放すどころかさらに力を加えてくる。


「ほんとに急いでるんで離してもらえますか? さすがに警備員呼びますよ」


「いいから聞け! お前が後釜の紹介もせず、勝手に辞めたせいでどれだけ会社が大変だと思ってる! 今でも人手不足のままなんだぞ!! 俺が口をきいて会社に戻らせてやってもいいんだぞ?」


 このおっさんは何を言ってるんだ、会社を辞めるのに後任を紹介し無ければならないなんてルールは存在しない。それに、たとえ天地がひっくり返ってもあんなテンプレのようなブラック企業になど戻るつもりなんて一切ない。


「コタロー何してるんだい? そっちのおじさんは知り合いなのかい?」


「おじさんとはなんだ! 失礼な!!」


 腕に絡みついてきた彼女の名前は九鬼くきみやこ、セミロングの美しい黒髪と黒い瞳を持った日本美人を絵にかいたような人だ。


 おっさんは呆けたような顔で都さんの持つ暴力的なまでの二つのふくらみに視線を向けている。そのおかげか俺の腕を掴む力が弱まったので簡単に振りほどくことができた。


「都さん。仕事中はちゃんと社長と呼ばないとダメですよ」


 都さんにそういうのは氷山ひやまゆき、シルバーに限りなく近いプラチナブロンドの髪をきれいにまとめていて、赤いフレームの眼鏡から覗く青い瞳が神秘的だ。高級そうなビジネススーツをピシッと着こなしていて誰がどう見ても仕事ができる女性にみえる。


「なんだ! その女たちは! 昼間っから、けしからんにも程があるぞ!久世!!」


「おじさん何なのか知らないけど、用がないなら帰ってくれないかい?」


「だからおじさんと呼ぶな! 無礼な女だ!!」


 今頃になって騒ぎに気付いたのかビルのガードマンが駆けつけてくる。彼は腰にぶら下げた特殊警棒に手をかけておっさんから俺たちを守るように位置取りながら言った。


「社長、なにかトラブルでしょうか?」


「大丈夫、彼はもうお帰りのようだから敷地の外まで送っていってやってくれ」


 ガードマンは俺に向かって敬礼を一つすると、おっさんの首根っこを捕まえて敷地の外へと引っ張っていく。


「え? 久世が社長? えっ? えっ??」


 おっさんは最後まで状況を理解できなかったようで間抜けな声をあげながら去っていった。


 思い返せば、あの日あの時あの場所で彼女と出会ったことで、俺の人生はそれまでのものとは全く違うものになったんだ。

ブクマ・評価などでで応援してくれるとめっちゃ嬉しいです。

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人類最強の暗殺者と史上最弱の勇者
今までの作品とは雰囲気が違いますが、楽しんでいただければなあと思います。



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