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騒動


 宿や商会といったものも、門前広場の周囲には多く立ち並んでいた。

 しかし。


「たぶん、立地条件いいとこって高いんだよな……」


 露店では主に、食料品や旅には必要のない雑貨類が並んでいた。自炊をしていないので、セレンにとって鍋は兜ほども役に立たない代物である。なお、視界が狭まるので頭部の装備は購入していない。

 ひとしきり市を見て回り、買い食いに勤しんだわけだが、このあとの予定を考えると悩ましい。

 肉野菜炒めを平らなパンに挟んだものを平らげると、シオンは指先を舐めてから花束を持ち直した。


「露店のひとも、あんまり宿にくわしくなかったね」

「地元なら使わないからなあ」

「酒場も泊まれる?」

「たぶん。でも、ちょっとなぁ……」


 ファラーシャの問いかけに、セレンはあいまいに返した。

 イウォルの下町に住むという露天商のおばちゃんは、下町の酒場ならと店の名前を教えてくれた。どの程度の下町なのかはわからないが、柄の悪さを最悪に想像すれば、悩ましい。セレンひとりなら何ら問題はないのだが、少々妖精たちには刺激が強い気がする。

 門番に訊けばよかったのかもしれないが、何となく感じが悪いので聞きたくないというのが本音である。一度ログアウトしてイウォルについて調べてくるということも考えたのだが、宿ではないところでログアウトすれば、身体(アバター)は眠りにつく。目覚めた時に身ぐるみをはがされていた、となれば笑えない。


 セレンは地図を呼び出した。街の概略がわかれば、と思ったのだが、その時騒動が起こった。


「何しやがんだ、待ちやがれ!」


 しゃがれた男の叫びが、市の賑わいを裂く。

 反射的に声のほうを向けば、先ほどの少女と負けず劣らず小汚ない少年が、二つほど大きめのパンを抱え、セレンたちのほうへ駆けてきた。

 後ろから、声の主らしき男の姿も見える。


 セレンは、自分のとなりを駆け抜けていくだろう少年に意識を向け、小さく溜息を漏らす。頭上で両手を胸に引き、うずうずしていたファラーシャは、その契約者の様子に慌てた。


 選択肢は二つ。

 見逃すか、捕まえるか。


 道行く者たちは、我関せずとその騒動を見守っている。

 そしてセレンもまた、成り行きを見守ることにした。身動きひとつしない彼を見上げ、シオンは首を傾げる。


「……捕まえないの?」

「ん、まあ」


 衛兵が飛んでこないところを見ると、よくあることなのだろう。

 この騒動に首を突っ込めば、何がしかのフラグが立つとは思うが……セレンにはこの次の可能性が脳裏に浮かんでいた。 


「おっちゃん、店、危ないって!」


 男の背後から、別の少年の声が上がる。

 追いかけていた男の足が止まり、舌打ちをした。


「くそっ、おぼえてろよ!」


 それ以上の追跡はなく、とぼとぼと男は来た道を戻り始める。その間に、完全に盗人の少年の姿は消えていた。


「ぐる、だな」

「ぐる?」


 おうむ返しに問うシオンに、セレンは頷く。

 盗んだ側も、店を離れたら危ないと注意を促した側も、同類だろう。もし、男が注意を無視したまま盗人の少年を追えば、注意を促した少年が新たにパンを盗むという寸法だ。しかも、周囲の露店の人間が追跡に手を貸せば、その店もおそらく被害をこうむる。


 盗みの手口のパターンだと、セレンはシオンへささやいた。

 ふむふむとしかつめらしい顔をしながら、熊妖精アルクトゥスは聞き入っていた。


「群れで狩りをするのに、似てるね」

「ある意味、狩りみたいなもんだしな」


 魔術学院の街という割に、それほど治安が良いわけでもないようだ。そうセレンが断じた時、視界に青と黒の羽がないことに気付いた。

 つい、先ほどまではセレンの頭上を舞っていたのに。


「ファラ?」


 焦りと共に、地図を表示する。

 妖精を示す緑のアイコンが、猛スピードで通りを北上していた。


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