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キャラクター


 ベッドに横たわると、使い慣れたVRユニットをかぶった。

 電源を入れると連動して、PCもVRモードへと切り替わる。バイザーを下ろし、目を閉じる。

 そして、普段とは違う、キーワードを口にした。


「パラミシア・オンライン……起動」


 音声認証により、ソフトウェアが起動する。バイザー内のスクリーンがパラミシア・オンラインのロゴを表示し……そのまま、白い世界へといざなわれた。

 新たなる世界、御伽話(パラミシア)へと。


 空から視点が落ちていく。

 どこまでも青く、海の色を映した空。

 そのグラデーションに魅入られる瞬間、それは切り替わった。

 遠くに見える紺碧の海、どこまでも続く山地、豊かな水量を湛える湖、海へ伸びる細く長い川、命の水に繋げられた複数の集落。

 視界の端々で、行き交う人だけではなく獣や、妖精の姿を見つけた。

 花妖精(フロース・ファータ)だけではない。

 エルフや木妖精(ドライアド)といったファンタジーで見慣れた妖精や、立って歩く猫、優雅に空を舞う銀色の竜、半人半馬なども草原を走り回っている。

 心躍らせるBGMが、一転しておどろおどろしいものへと変わる。

 空に暗雲が垂れ、無造作に大地が割れる。深い亀裂の奥深くに、慌てふためくドワーフやダークエルフが見えた。襲い来る魔物は眼球すべてを紅玉ルビーのように染め上げたオークやゴブリン……そして、姿を見せない、影――。


「――さあ、早く……」


 女の子の声が、耳元で囁く。小さなはばたきと共に、彼女は自身の視界へと舞い降りた。

 光をまとう、花妖精(フロース・ファータ)ルルディ。

 てのひらに乗りそうなほど小さい妖精は、その背中の羽をはばたかせ、蓮へと手を差し伸べる。


「あなたを、癒したい」


 せつない声音を発したかと思うと、ルルディはくるりと身を翻す。

 その姿が、影となり――パラミシア・オンラインのロゴとなった。

 BGMが消えていき、PVが終わる。

 そして、既に登録済みの個人認証が開始された。

 

 フルダイブ型VRゲームの操作手順は、どこも大きく違わない。UIユーザー・インターフェースが多少異なる程度である。蓮は慣れた様子で、白い空間に佇む「新たなる自分」を眺めた。


 キャラクター名、セレン。

 二十年ほど使い込んでいる名前を入力し、次々とアバターを設定していく。

 性別、身長、体重、そんなものはリアルと同じでいい。考えるだけ面倒だ。今のところ健康診断にもひっかかっていないのだから問題ない。

 顔の造形はランダムで行なって、リアルの自分よりそこそこ整っていたらそれでいい。NPCの花妖精フロース・ファータが顔で仲間になるとかなら話は別だが、そういった記載は見つけられなかった。わざわざゲーム世界で不細工になりたがる者も、そうそういないだろう。……かつて遊んでいたクリーク・オンラインでは、PK(プレイヤーキリング)を狙う連中の中にわざと顔の造形をいじっている者がいたが、まあ、その程度だ。意図的にPK(プレイヤーキラー)になるつもりはない。指名手配犯になって花妖精(フロース・ファータ)に嫌われたら困る。困る。困る。とランダムをタップしていると、少し目の吊り上がったカッコイイ系の美形になった。一安心である。

 髪の色、目の色、肌の色。このあたりは今まで遊んでいたゲームを踏襲することにした。黒髪黒目どちらかというと黄色人種なわけだが、ほんの少しだけ髪にも瞳にも青系を混ぜるのがお気に入りだった。光を通すと少しだけ青みがかる。

 ステータスも初期スキルも、初期設定でトータル二十までは調整ができるのだが、そこで少し迷った。


 何を、目指すか。


 パラミシア・オンラインでは、プレイヤーはただの人間だ。レベルごとに基本ステータスが上昇し、自由に振ることができるバローレムポイントを取得していく。バローレムポイントは各種ステータスを上昇させてもよいし、スキルに振ってもよい。

 ただ、どんなステータスになろうとも、重要なのは妖精の存在だ。よほどの差がない限り、ステータスの数値など妖精の能力や支援によって簡単に覆ってしまう。

 それなら、妖精との連携()を深められるようなやり方のほうがいい。……と、初心者向け案内にも書かれていた。要するに、最初から仲間にする妖精の特性に合わせてしまうのだ。


 だが、もし、仲間にしたい妖精といつまでも出会えなかったら?


 絶望的な予想が脳裏を過ぎり、蓮はそのまま確定を選んだ。すべてのバローレムポイントを置いて、素の数値のままで挑む。そこに「運」という項目があったのなら、何をさておいても全振りしただろう。しかし、その項目は存在しなかった。数字で測れるものではない、ということか、それとも操作できない隠しステータスなのか。そこで、呆気なく彼はあきらめた。

 蓮がこの世界に求めることは癒しであり、それ以上でも、それ以下でもない。よって、特に初期で数値を振ったところでボーナスがつくわけでもないのだから、とっておけるならとっておこうという考えだ。

 VRの感覚が他のゲームと共通なのだから、多少は動けるはずだ。それは立派な力となるだろう。それこそ、隠しステータスのように。


 青年が、目を開く。

 そして蓮は、セレンとなった。


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