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少しでも早く会いたくて


 緩衝地帯ともいうべき、ガメリオンから北の森までの草地は、徐々に木立を増していった。その隙間に魔物が隠れていることが多くなり、セレンの大剣クレイモアも振るう機会が増える。もっとも、シオンのほうが先に気付いてしまうので、敵が複数でなければ未だに出番の来ない契約者コントラティスタだった。

 北の森に足を踏み入れると、地図マップが切り替わった。わかりにくくはあったが細い間道が走っている。先を歩く熊妖精シオンのおかげで、迷うことはなさそうだ。


北の森(ここ)でいちばん大きな妖精の遊び場(フェアリー・サークル)でいいんだよね?」

「ああ」


 そのあたりで拾った大きな枝を杖のように振り回しつつ、シオンは歩いていた。セレンにとっては膝丈の周囲の草を、時折べしべしと叩いている。


「それなら、中心だからまだ奥だなあ……」


 その動きが、不意に止まった。

 シオンは枝を投げ捨て、間道の先を鋭いまなざしで睨んでいる。セレンもまた、シオンと同じように行く先にある何かを見出そうとした。

 ……遠吠えが、聞こえる。


「セレン」


 呼びかけに見下ろせば、小さな左拳を右の掌で包み、シオンは握り締めていた。


「できるだけ削るから、追撃お願いしていい?」

「それさ、ホントは逆にしたいんだけど」


 凛々しく言い放つテディベアの頭を撫で、そして両手でクレイモアを握り直す。離れていく手を見上げ、シオンはにんまりと笑った。


「だぁめ。

 ――だってシオンは、セレンの妖精なんだからね!」


 その声に合わせるかのように、正面から巨大な猪が現れた。直後に突進を開始するが、シオンはまっすぐにその猪へと突っ込んでいく。ふたつの影が重なろうとした時、熊妖精の拳が唸った。牙の生えた下顎を突き上げ、手近な木へと巨大な体躯を叩きつける。地面へと落ちたところへ、追いすがっていたセレンがクレイモアで一撃を加える。切り払った瞬間に、シオンは叫んだ。


「下がって!」


 未だにシオンとの呼吸が掴めないセレンは、言われるままにそのままわずかに後退する。起き上がって態勢を整えてしまう猪へと、入れ替わったシオンの拳が振るわれる。しかし、その牙が突き出された。小さな悲鳴とHPバーが、シオンの怪我を伝える。それでもシオンは猪の顎を掴み、その場に縫いとどめた。

 セレンはクレイモアを振りかぶった。上段からの剣撃は猪の脳天を割り、光へと変える。残された大振りの牙に、溜息が漏れた。

 同時に、システムがレベルアップを告げる。何と、セレンとシオン、どちらもレベルアップを果たしていた。セレンはレベル十七、シオンはようやく二である。ある一定以上の敵でなければ、シオンはどうやらレベルアップできないようだ。

 だが、今はそれを言及している場合ではなかった。


 セレンはすぐに皮袋スーカからHP回復薬を取り出した。そして、赤い筋の入ったシオンの手へと振りかける。


「えっ、あ、この程度ならもったいないよ!?」

「まあ、シオンのおかげで全然使ってないから」


 事実だった。

 先手必勝とばかりに突撃隊長を買って出る熊妖精シオンのおかげで、セレンは未だに無傷である。そして、レベル的にもこの回復薬の容量では、大怪我は回復しきれない。それならば、自分と違ってこの世界に生きる妖精のほうが痛みを感じるのだから、使わなければ損である。

 呆気なく消えてしまった傷跡を撫で、シオンは頬を膨らませる。


「むぅ、セレンの役に立ちたいんだけどなぁ」

「じゅうぶんお役立ちだって。そんなにがんばらなくていいよ。すごく助かってるから」


 片手でクレイモアを持ち、また熊妖精アルクトゥスの頭を撫でる。その感触がとても心地よくて、ついつい事あるごとに撫でてしまうのだ。これはもはや、青虫妖精エルーカの蛹を服越しに撫でるのと同じくらい癖づきそうである。

 シオンもまた、それを嫌がらない。

 照れたように笑い、こちらを見上げてくる真っ黒な瞳に曇りはひとつもない。それがセレンにとってもうれしかった。


 ああ、そうか。

 青虫妖精エルーカも、そうだったっけ。


 思い出すと、先に進みたくなる。少しでも早くと急く気持ちは、シオンがいてくれるからこそ解き放つことができていた。

 再びクレイモアを肩に担いで歩き出すセレンを、軽くシオンは追い越す。わかっていると言わんばかりに、その歩みを上げながら。


「――森の子が、どうして人間についてるの?」


 不思議そうな女性の声が響いたのは、その時だった。


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