過去を見るな
俺は、加那を守れなかった。
大人からも、過去からも。
そんなことを思っているといきなり後頭部を何かで殴られた。
「そんな顔するなよ。らしくないぞ。」
驚いて後ろを振り返ると、エビの握り寿司のぬいぐるみだった。
加奈が尻尾の部分を持ってバットのように構えてる。
「は?何やってんの?」
驚こからか俺の喉からは自分の声を疑うような素っ頓狂な声が出た。
「生きてたら出来ないことかな。」
しんみりと加那は言うが埃が凄くて俺は咳をしていた。
まさか、お土産売り場の売れ残りか何かを盗んできたのかもしれない。
埃が髪についていることは避けられないだろう。
何せ、五年前の商品なのだから。
「もっと、健君の彼女でいたかったな。でも、死んでるからこそ失わないものもあるのかもね。」
「お前が俺を見放さない限り、お前が生きていても俺はお前を振ることは無い。死んでいても俺の彼女だ。」
何だかかっこいい事を言ったような気がしたが、当たり前の事なのかもしれない。
「駄目だよ。健君はまだ未来がある。私じゃない人と一緒になるべきなんだ。」
「そんなこと。出来ない。」
俺は、そんなこと出来やしない。加那を彼女に出来たのにそれを手放すなんて。
「じゃあ言ってやる。私はお前みたいな弱虫は好きじゃない。いつまでも、死んだ人を忘れらずに引きずる奴なんて私の彼氏としての資格はない。失せろこのストーカー。」
加那の眼には涙が一杯だった。
加那の想定外の行動に俺は何も出来なかった。それでも何故、死んでしまったのかだけは聞きたかった。
「私はあの日、親から逃げて運悪く車に轢かれたんだ。これで良いか。過去は全て思い出した。私の無念は健が私の事を引っ張っている事だけだ。だから、だからぁ。」
そして、涙が目から溢れ出てきた。
「私を成仏させて。」
そう言うと、加那は後ろを向いて歩いていった。
「あんな大人にならないでね。」
そう言い残して。




