矛盾
「なんか、ごめん。」
ユウマは頭を下げた。こういう事を出来るのも大人っぽいな。でも、こんな事してもらう様な事はしていない。
「ううん、私が勝手に泣いただけだもん。ユウマは謝る必要無い。」
「そうやって、自分を責めるから辛いんじゃ無いか? もっと気楽にいこうよ。」
「良いな。ユウマは私よりずっと大人っぽい。」
「ん?子供っぽくないか?俺」
ユウマは自分を指差してキョロキョロしていた。動揺の仕方はどこか幼さを残していた。
可愛い
「やっと、笑った。」
ユウマに言われて気がついた。私は笑っていた。笑ったのは久々だろうか。人ともずっと接していなかった気もする。
「ユウマのお陰。ありがと。」
最後の方は少し小さい声になってしまった。
「ああ。どういたしまして?」
ユウマは優しく微笑んだ。
私は、なんだか恥ずかしくなって俯いた。
ん?私は思い出すべきではない気がするものが脳裏に過ぎった。
「健君?」
もしかすると。もしかするかもしれない。私の鼓動は早くなり、ここから逃げたいという衝動に駆られた。
「やっと分かったか。加那」
私の心臓は、破裂するのではないかというぐらい波打った。私にとって脳では処理しかねる様な大きな事だった。
「なんで、ちゃんと言ってくれなかったの?」
彼氏が誰か分からなかった。それは、私にとって最高の屈辱であり、分かって良かったと思えたのだった。
「言わずに気づいて欲しかった。加那が何であろうと。」
「健君のバカァ。」
そう言うと私は泣き出した。健君のかっこいいセリフなんて私死んじゃうよ。
健君は私を抱きしめた。
「お前、高校になってここ来たの覚えてる?」
しばらくの間があってから健君は、日の出を迎えそうな空を見上げて言った。
「忘れるわけないじゃん。」
そう、忘れるわけが無い。あんなに楽しかった事。
「それは…いつだ。」
まさか、健君は忘れたわけじゃないだろうか。そんなこと、私は思いたくはない。その一心だった。
「………五年前。」
「やっぱりか。お前今、幾つだ。」
私の誕生日まで忘れるなんて。そんな事。
「17だよっ!!誕生日まで忘れたの!?」
泣き出しそうになるのを抑えながら私は叫んだ。
「考えてみろ。おかしいことが多いと思わないか?」
……気づいていたよ。私だって。




