涙
まあ、お互いに顔が見づらいのもなんだしという事で、唯一街灯が点いている大通りのベンチに向かった。
何故、街灯がつくのかより、それを知っている彼が不思議だった。毎日通った私だからこそこそ知っているというだけであって、普通は遊園地を一日や二日で全ての場所を覚えるなんてできない。ましてや夜なんかだと暗くて見づらいだろうに。
私はベンチに腰掛けて、彼は立っていた。
「俺、ユウマ。お前は?」
「え?ああ、私、加那。」
いきなり聞かれて少し動揺してしまった。
ユウマというらしい少年は、名前しか名乗らなかった。
「いくつ?」
「17。ユウマは?」
「ん?17」
あれ、ユウマも17なんだ。全然知らない子だし、同学年じゃないだろう。誕生日が遅いのかな。
「とりあえず聞きたいんだけど、なんでこんなとこに?こんな時間に?」
「あんたもでしょ?」
「俺は、お化け探しだけど。」
「私は、家出かな。」
ふーんと言ってユウマは、考え込んでしまった。
考え込む要素あったのかな。
「なんで、家出なんか?」
「え?なんでって、親が嫌だから。」
「なんで親が嫌なの?」
「勉強、成績、行儀とか色々うるさいんだよ。あんたにはどうせわかんないんでしょうけど。」
口を開いてからから、しまったと思った。たまに人を見下したような事を言う私の変な癖は初対面の人に嫌われる。そもそも、友達なんていないんだけど。
「わかるよ。俺でも、加那が辛い思いをしてるって事だけなら。」
ユウマは急に私の隣に座ってきた。
「なっ、馴れ馴れしい。」
「別に良いだろ。減る物でも無いし。」
ユウマの所為で変な空気になった。
「ごめん。やっぱ立つわ。」
「良いよ。座っておいて。」
「なあ、良ければ加那の家出の理由詳しく教えて。」
少し間を置いてユウマが尋ねてきた。
「ん?私のお母さんね。昔、子育てが上手とかで近所の親達から尊敬されてたの。
それで、私はお母さんの為に成績を高く保つ必要があった。
お母さんが遊ばせたりさせてくれなかったから勉強ばっかりして、全く遊ばずに勉強していたの。
唯、高校受験で第一志望に受から無くて、お母さんの人気も落ちて、それでいわゆる虐待って奴をされて。
それでちょっと悩んじゃって。」
「は?お前悪く無いじゃん。なんでそれで悩んだりする必要があんの?」
「お母さんの機嫌を損ねたのは私の所為だし。」
「馬鹿?それで家出?そんなのおかしい。頭大丈夫?」
「はあ?ユウマに私の何がわかるの?」
気づくと私は声を荒げていた。
「遊びたくなれば遊ぶ。勉強したく無いならしなきゃ良い。親の虐待から逃げて。加那が望むのはそれで解決する。でも、それだけで良いのか?将来何かがしたいとか無いのか? 俺は、現在と過去だけ見ても何も変わらないと思う。」
「先生は過去も見て、現在を一生懸命生きろって言ってた。未来なんてすぐ変わっちゃう。安定しない。」
「現在を生きていたって、現在しか見えない様ならそいつは生まれつきの馬鹿だ。諦めろ。
でも、お前は賢いだろ。なら、未来を見渡す事も必要だろ。大体、安定を求める事自体おかしいんだよ。そんなの全然楽しくないって、え?」
私の手の甲に雫が落ちた。そう、私は知らない間に泣いていた。
私と本当に同い年かを疑うほど大人っぽいユウマの前で。




