怖い
今日も、ここへ来てしまった。昨日の事件にも懲りずに来る理由は自分でもよくわからない。しかも、もう数年通い詰めているはずだ。
そもそも、結局、昨日は警備員がいたのかも分からないため事件と呼べるのかは知らないが、その場で捕まれば親に何と言われるか。そのまま、学校にも通報なんて事にもなれば、部屋に閉じ込められる事で済むかも微妙なラインだ。
辛い事は出来るだけ考えず、意味もなく、二度と明るく光って回る事はないであろう観覧車をベンチに腰掛けて見上げてみた。金属の塊を無理に可愛らしく見せた観覧車はどこか私に似ているかもしれない。そして、そのカラフルな塗装も剥がれてきていた。
我ながら、つまらない事を考えて腕時計に目を落とすと、短い針は1時を指していた。
この空間にいる限り眠くはならない。そんな気がした。
でも、いつまでもここにいるわけにはいかない。
「帰ってテスト勉強しなきゃ。」
そう思った。しかし、今は夏休みだという事に気がついた。
「あれ、期末テスト終わったっけ。」
自分の点数が思い出せない。受けた記憶も曖昧だが受けたのだろう。
明日にでも、見直しをしなければ。点数を忘れるなどもってのほかだ。
こんな事じゃ、またお母さんに怒られる。そう思っただけで胸が締め付けられた。私はこんなところで何をしているんだ。勉強をしなきゃいけない。
現実に目を向ける。
それは、私にとっては凶器を持った人を凝視するような事であり、メンタルが弱い私なんかには出来るわけがない。だからこうして遊園地の空間に浸り、心の傷を少しでも癒そうとしているのだ。
私は、自分の無力さが嫌になり、大人を拒絶し、拒否という救われないような深みにはまった私は、誰にも救い出されない暗闇に落ちて、叫ぶ事もしない。
「もう、嫌だ。怖い。何かが。」
大人が怖い。拒絶している自分が怖い。将来も怖い。過去にしていた事も怖い。
「過去?」
私の声は暗闇に反射した。
「過去がどうした。終わった事じゃないか?それ。」
暗闇の向こうから、世の中を馬鹿にするような不快な男性の声がした。
「だ、誰?」
私はそれに大きな恐怖心を抱かずにはいられなかった。声は震え、筋肉は硬直し、目は視点を定めてはいない。
「名前を言って分かるものでもないだろ。俺もお前が誰かを知りたいんだけど。」
彼の足音は、私に確実に近づいてきていた。
「来ないで!」
「初対面もしていない人に対してその態度か?まあ、俺もお行儀良くはないが、さすがに拒絶はしないかな」
私はこいつに恐怖心や不快感を超える何かを感じた。