最終話 青春ウェディング
「別に、夫婦、って形に拘らなくてもよかったのでは無いかな? って思うような気がしてる最近」
「ちょっ、嘉秋!!?」
あれから半月。
俺の親父の手引きで婚姻届が役所に受理されてしまった、故に今は形上『夫婦』になっている俺と波奈。
2人で決めた事の1つが、1ヶ月以内に俺が全てを思い出せなかった場合は、離婚すると言う事。
タイムリミットまであと半月。
当時の状況に酷似した環境の中で生活すれば思い出しの促進になるのではないか、と言う事で、
「昔は嘉秋くん、私の事を門馬さん、なんて余所余所しく呼んでなくて…波奈って呼び捨てで呼んでたんだよ?」
その波奈の言葉を信じ、慣れぬ事だが彼女のことを下の名前で呼んでいる。
「…で、今日の夕飯は何にするの?」
俺は波奈の隣で買い物カゴを持ちながら、今晩の献立について疑問を投げる。
「今日はねぇ…たまにはカレーにでもする? 桃や蜜柑入りのフルーツカレーとか?」
「…やっぱり今日は俺がごはん作るよ」
やっぱり俺の嫁の味覚はおかしい。
学校終わりの下校道。
俺と波奈は帰りがてらにスーパーに寄り、今晩の献立の具材の買い物をしていた。
「そう言えば嘉秋、この前ポケットにティッシュ入れたままズボンを洗濯機の中に入れたでしょ? すんごい事になったんだけど!」
「えっ? い、いつの話?」
突如として思い出したみたいな、波奈のお怒りメモリー。
何故このタイミングで思い出した?
「靴下だっていっつも裏返しで入れてあるし…ちょっとは洗濯する身にもなってよ!」
「わ、悪かった悪かった。気を付けるよ」
慣れ、とは非常に怖いもので。
半月とは言え、こうも2人で生活をしていると、本当の夫婦さながらに(夫婦なんだけど)こう言った家庭のやり取りをナチュラルにやってしまう。
全くもぅ〜…とぷりぷり気味の波奈に気を使いつつ、フルーツカレーの阻止のために無難な野菜だけを選んでカゴに入れていく俺。
「ってアレ? 嘉秋、桃は?」
「えっ?」
「結局結婚はしたものの、当主はまだ継がねぇときた。あの我がまま息子め」
古梶家母屋の縁側。
古梶家現当主の古梶政宗は1人、陽に当たりながらに猫を膝上に抱き、茶を啜っていた。
「全く…せっかくヤツの初恋の嬢ちゃんを連れて来てやった、って言うのに。どんだけ俺が門馬のジジイに頼み込んだ事か。親の苦労も知らないで」
息子に対する愚痴をボヤきつつも、彼のその表情はどこか晴れやかで。
「さっさと当主も継いでくれよな、バカ息子よ」
昔のある日を思い出す。
自分の息子が初めて恋をして、しかも怪我してまでもその相手を護って。
互いに好きと、将来を誓い別れ数年。
あの別れは両家の都合の上での事情があり、可哀想な事をした…と、密かに胸を痛めていた政宗。
「…当主は早く継いで欲しいか…孫の顔はまだせめて波奈ちゃんが高校を卒業してから…見たいなぁ」
早まるなよ…と、内心思う政宗だった。
「お風呂空いたよー」
「おう、わかった」
夜20時過ぎ。
居間でテレビを見ながらくつろぐ俺。
そして可愛らしい淡い黄色のパジャマを着た、シャンプーの香り漂う波奈。
俺はそんな波奈に内心ドキっとしつつ、座布団から腰を上げ風呂場へと向かう。
「ねぇ嘉秋」
ふと。
風呂場へと向かう俺の背に問い掛ける波奈。
「…好きだよ」
「…っ!?」
不意を突かれた。
突然の事に振り返る間もなく、波奈に背を見せたままむせる俺。
「…えへへっ。いい加減思い出せー!」
恐らく、俺の後ろでは無邪気な笑みを見せる波奈の姿があるのだろう。
「…あ、あんまり揶揄うなっ! 風呂行ってくる!」
むせてしまった事に対する恥ずかしさもあって、俺は急ぎ足で脱衣所へ。
きっと今の俺の顔は真っ赤になっていることだろう。
…顔は真っ赤になっている。
恥ずかしさ、羞恥。
そして何より、そんな彼女の行為に対する、
愛おしさ。
俺の最近の悩みは、いつ話を切り出すか。
さっきの買い物の時の洗濯の話みたく、ふと何気なく思い出した…程を装うのが吉かな、と。
俺は昔…初めて恋をした女の子の事を思いつつ、風呂場へと向かった。
「…まぁ、湯船に浸かりながらでも考えるとするか」
この作品に至ってはもはや謝罪しかありません。
色々と本当に申し訳ありませんでした。
最後はかなりの駆け足展開となりましたが「完結」を付けられる、区切り、まで書けて…自己満足ではありますが、良かったと思います。
本当に申し訳ありませんでした&ありがとうございました。