プロローグ 朝のワンシーン
夫婦漫才ってモノが書きたかっただけなんですよね。
高校生夫婦の、ちょっと変わった青春物語。
更新速度はめちゃくちゃ遅いですが、最後までお付き合い頂けたら。
「はい嘉秋、お味噌汁できたよ!」
「あ、ああ……」
初夏。
生い茂る草木の緑。
湿気の多い、じめじめとした朝。
「今日の味噌汁はね、ワカメと豆腐の他にも生クリームを入れてみたんだ!」
「な、生クリーム……ですか……?」
木造の一軒家。
家の中央に位置する和室の居間。
畳に土壁という、和室の中の和室。
その8畳の居間。
部屋の中央に置かれたちゃぶ台の上には、色鮮やかな日本の朝の食卓風景。
……赤いほうれん草のお浸し、桃色の沢庵、紫色の卵焼き、真っ黒なご飯、そして白い味噌汁。
まさに色鮮やか。
「うん、生クリーム! たまには甘い味噌汁もどうかなぁ〜って!」
「……味噌汁に甘さって……」
生クリーム入りの白い味噌汁。
なんか……甘そう。
「でね、今日のほうれん草はね、ちょっと刺激を求めて七味唐辛子をいっぱい掛けてみました!」
「……甘さの次は辛味かよ!?」
ちゃぶ台の横に置かれた炊飯器。
そして炊飯器内の真っ黒ご飯を二人分の茶碗によそっている、割烹着姿の彼女。
彼女はご飯をよそいながら、終始笑顔で今日の朝食の説明をする。
「でね、こっちの沢庵は苺クリームで和えてみたの! 沢庵の甘さと苺の酸っぱさがベリーマッチ! 苺だけに!」
「…………」
ほうれん草(唐辛子)の臭いと沢庵(苺)の臭いが空気中で混ざり合い、かなりの異臭が。
思わず口を手で塞ぐ。
「で、卵焼きには紫の野菜ジュースを入れて、野菜嫌いな嘉秋にも野菜の栄養を取れるようにしてみました!」
「……うっぷ」
見た目がエグい、紫色の卵焼き。
それはもう、鮮やかな紫色でして……
「で、ご飯はイカスミで炊いてみたの。ほら、昨日か一昨日かニュースでイカスミ特集やってたでしょ? あれ凄い気になっちゃって!」
「……俺さ、白米食べたい」
「まぁまぁ、墨米もきっと美味しいよ!」
本当に天使のような無垢の笑みを見せる割烹着姿の彼女。
その手には、真っ黒ご飯がよそられた茶碗。
しゃもじが黒くなってるし。
「さ、嘉秋! 冷めないウチに食べよ!」
彼女は頭の頭巾を取り、それを綺麗にたたむ。
今まで頭巾で隠れていた、彼女の爽やかなショートの黒髪がお目見え。
「嘉秋のクラス、今日体育あるんでしょ? ちゃんと体力つける意味でも、朝ご飯はしっかり食べてね!」
そう言い、真っ黒イカスミご飯が盛られた茶碗を差し出す彼女。
俺はなんとか、なんとか笑顔を作り、茶碗を受け取る。
「あ、ありがとな」
……体育の前に体力の限界が来てしまいそうだ。
彼女の名前は門馬波奈。
16歳、高1、4月10日産まれ、血液型はB型。
身長、体重は共に高1の平均を僅かに下回る。
得意科目は国語、苦手科目は科学。
運動は走るモノ以外だったら平均的。
走るモノはダメダメ。
大の味覚オンチ、動物大好き、1度寝たら10時間は起きない。
ルックスはまぁまぁ、スタイルは……うん、まぁ……太ってないだけマシかな。
成長期はこれからだから。うん、きっとこれから……(本人談)
……どっちかと言えば、キレイ系より可愛い系な感じ?
……これが門馬波奈……ぶっちゃけ、俺の嫁の簡単なプロフィールである。
「ねぇ、もしかして学校でもダーリンとか呼んだ方がいい?」
「呼ぶな、変に噂立ったらマズイだろ。ってか学校でもって、家ですらダーリンって呼ばれた事ないんだけど!?」
俺、古梶嘉秋は18歳、高3の普通な男子。
そして門馬波奈の夫である。
門馬波奈……まぁ今だと正式には古梶波奈と、結婚したのが1週間前の事。
お互いの家柄故に、俺達は結婚した。
「嘉秋、早くしないと学校遅れるよ!」
「わーってる!」
朝食を強引に食べ終え、急いで支度し、いざ学校へ。
……俺達は今、古梶家の離れの家で二人で暮らしている。
夫婦水入らず。
「もぉーっ、嘉秋のトイレ長すぎなんだよ。もっと早くしてよ!」
「誰のせいでトイレ長引いたと思ってんだ! 沢庵に苺とか2度とするな!」
誰かの朝食のせいと思われる腹痛のため、トイレが長引き、今遅刻寸前状態の俺。
急いで制服に着替える。
「はーやーくーっ! はーやーくーっ!」
先に支度が終わった波奈は、玄関で1人足踏み。
「ちょっと待て……あれ? 靴下が片方ねぇ!!」
「嘉秋、靴下は箪笥の上から2番目んとこ!」
和室で着替えに戸惑う俺に、玄関から聞こえる波奈の大きな声。
「マジか! あと体育で使うジャージはどこだ!?」
「ジャージ? ジャージなら……あッ!! まだ洗濯機の中だっ!」
「なっ……」
俺絶句。
今日体育一時間目
「ちょ、ジャージ洗濯機の中って事は……」
「……めんご嘉秋、まだ乾かしてない(ニコッ」
「ちょおおおぉぉぉっ!?」
まだ未成年で、しかも高校生で。
だけど二人の、特殊な家柄のせいで、小学生の時以来会った事すらなかった二人は、突然、何の前触れもなく、家の勝手で結婚する事となる。
これは、高校生ながらに夫婦となった二人の、ちょっと変わった物語。
そして時間は、二人が出会う前、1週間前へと遡る……