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蒼国物語  作者: 松谷 真良
第6章 夏だー海だー青春だー
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宿泊

「皆さん、今日から宿泊です~用意は出来ましたね!行きま~す!」


朝からテンションが高いルーピンが集めた生徒の先頭に立ち学園を出る。


「ところで、何処に泊まるの?」

「えっと…白の国だったかな?」


今さらな質問をしてきライラにフィリアが曖昧に答える。


「白の国だよ」


セノーテがフィリアの確認に応じた。


「え…マジ?色々と心配何だけど…」


ライラが不安げに呟く。


「ま、大丈夫でしょ。学校の宿泊で来ているんだから」

「そうだね、うん」


白国へは無断で入れず、ワープでたどり着くことができない。だから空を駆ける電車、その名も空車で白国まで移動する。

空車とは空を駆ける電車のこと。電車とは言っているが電気で動いては無くて魔力で動いている。


「14泊15日とかいくら夏休みだからって有り得ないよねぇ~」

「だね。そう言えば白の国って雲の上に有るんだよね!真っ白なのかな?」


セノーテがしみじみと呟くとソフィーが嬉しそうに弾んだ声で誰にともなく聞いた。


「ええと、非情に言いにくいんだけど真っ白ではないよ。雲の国とか別名で言われてはいるけれど雲の上に位置するのは偉い人が住んでいたり他国の王族が来た時に泊まってもらうところくらい。後は…危険地域かな」


ライラがソフィーに言いにくそうに本当のことを言う。


「へぇええ。ライラが知っているなんて珍しい!」


セノーテが感心している。


「それって…皆私をどういう目で見ているのっ!」


ライラはソフィーとかセノーテの態度にショックを受けて空車の椅子にグデッとなる。


「まぁまぁ」


そんなライラをフィリアがなだめた。


「うわ~ん、フィリアだけだよ、私の友達は!」

「…そこでウダウダしていると迷惑だしとか思ってはいないから安心してね。私も多分ライラくらいしか友達はいないよ」


フィリアがサラッと失礼なことを言ってライラをさらに落ち込ませる。


「そう言えばレオ君は?」


レンがいつもフィリアの隣に居るレオが居ないのに気づいて尋ねた。


「え?ああ、レオはね仕事」

「はい?」


不思議そうなライラ達にフィリアが説明を試みる。


「ええと、ほら。レオは第一王子でしょ?義務があるんだよ。王子としての」


「ふぅん。フィリアは無いの?」

「え、わ、私?い、いや。わ、私はその、ほら、えっと…家出中だし」


フィリアはセノーテの質問にうろたえる。


「うん?何で慌てているの?」

「え?い、いや。そ、そんなこと無いって!き、気のせいだよ」


フィリアはさらにうろたえてライラ達からバッと遠ざかる。


「どうしたの?」

「ど、どどうもしていないよ。そ、それでね。レオは王宮で政務をしているんじゃないかな」


半泣きの顔でフィリアはライラ達に説明しきった。


「なんで泣きそうなの?」

「な、泣いてなんかないよっ!…大丈夫、心配はいらない」


一回深呼吸をしてからフィリアは顔を上げて心配そうなライラに、にっこりと笑う。


「ふぅん、ならいいんだけどさ。あ、皆外見て!空が綺麗~!」


ライラは納得していない表情で笑ったフィリアに頷くと窓を開けて歓声を上げる。


「本当だ!空の上って感じで良いねぇ」


セノーテが窓から身を乗り出して笑う。


「…ね、フィリア。私は不運?幸運?」


白国に知り合いが沢山いるライラが他の人が空の景色に気を取られている内にフィリアへそっと聞いた。


「さーね。大丈夫なんじゃない?」


フィリアはどこか上の空で不安そうなライラに答える。


「どこか痛いの?…わかった!お腹すいたんだね?」


ライラがフィリアのおかしな様子に悩んでから自分なりの答えを出す。


「いや、ライラじゃないから。ちょっとね」

「ちょっとね、じゃ分からないよ。何々?言ってみてよ」

「後でね」


フィリアが答えたタイミングを見計らったかのように空車の放送が入った。


『間もなく、終点白の国ペガスス村です。しかしその前に魔物が現れました。皆さん…ジ、ジジジジ』


放送の音が乱れて消えた。


「おおおー!!って、こんなに国の首都っぽいモノに近いのに魔物が現れるの?問題でしょ!」


基本的に魔物は人里から遠く離れた山とかに住んでいるので街では見かけません。後、重要な街には結界が張ってあることの方が多いので魔物は近づかない。

そのことをセノーテは言って驚く。


「〝我が魔力によりて結界を張る。この地は聖地。何人も犯すことを叶わぬように、我が血によりし聖痕を残す。ラミアス・テナルカ″」


フィリアが素早く結界を張る為の呪文を唱え結界を維持するための供物に少量の血を垂らす準備をする。


「ええと、〝シルヴァームーン、召喚″」


次にフィリアは結界の呪文の効果が消えないようにしつつ、召喚魔法を唱え異次元から魔力を送入した剣、魔剣を呼び出して、左腕を傷つける。


フィリアの左腕を伝って血がポタリと窓の外の青空に落ちた。赤い一粒の血は青い空に吸い込まれ、そう文字通り吸い込まれてかき消えた。


次の瞬間、空が光り銀青色の魔法陣が現れて複雑な模様を描く。魔法陣は透明な膜を空車から見えた大地に張ってから消えた。


「…結界、張った」


疲れた顔をしてフィリアは空車の座席にヘタり込むと構えていたライラに伝えた。


「有難う!よっし、魔物と闘るかっ!」


ライラは制服の裾をまくりあげて腕をブンブン振りまわしてから窓の外に飛び出した。


「うっそ!!ラ、ライラ?!だ、大丈夫なの!!」


傍らで見ていたセノーテが止めそこなって慌てる。


「大丈夫でしょ、ライラだもん。それよりも他の魔物に備えておいた方がいいんじゃない?」


フィリアがほっとしているように見えたクラスの人に注意した。


「え?フィリアがいるのに、そんなこと言うの?フィリアならあのくらい大丈夫でしょ?」


セノーテが言うとショートカットの赤髪で赤い瞳が可愛らしい学級委員長の碓氷鈴子、通称リンゴさんがフムと考え込む。


「フィリアさんにばかり頼るのはどうかと思うのですの。やはりここは私の燎子ちゃんにでも…ですの!」


リンゴは語尾に『ですの』が付く。で、リンゴさんが言った燎子とはリンゴの幼馴染であり良きからかい相手である大橋燎子である。フィリアに負けないほどの無愛想、ボサボサの茶髪を腰の方でチョンと結んでいる。

2人は緑国出身だから名前が漢字だ。

説明はこれくらいにして本編に入るが、リンゴにいきなり話を振られた燎子はぎょっとして後ずさった。


「燎子ちゃん~お願いですの~」


リンゴはじりじりと後ずさる燎子に近寄って下からうるうると燎子を見上げる。


「い、いやだ」


燎子はやや断りにくそうにだが、しっかりと断る。


「…良いよ別に。私がやるから」


そんな仲が良い2人を見てフィリアが立ち上がり閉めた窓ガラスに追突した鳥型の魔物を退治しようとする。


「待ちなさいよ、わたくしがやりますわっ!」


ポラルがフィリアよりも先に窓にたどり着きバッと窓を開けた。


「うわ、バカ…」


その途端魔物の殺傷力のある嘴がポラルの頭をつつこうとする。それを間一髪間に合ったフィリアがポラルのエリをつかんで後ろに投げ飛ばす。


「いやぁ、バカっていやだねぇ。やれやれ。シルバームーン、もう一仕事だって。頑張ろうか」


愛剣にフィリアが話しかけてなおも嘴を突っ込んでいる魔物に剣先を向ける。


「フィリアー、こっちは終わったよ!ってもう一体いるの?」


ライラが反対側の窓を開けて入って来て襲いかかって来ている魔物を見、驚く。


「面倒くさいよね。もうほんっと、さっさとくたばりやがれって所?」


疲れているのかフィリアの本音がただ漏れである。


「フィリアさん…」


クラスの男子がそんなフィリアに何故か赤くなる。


「うわ…」


ライラが男子を見てこいつら気持ち悪と言いたげな表情をした。


「終わり」


フィリアが魔物の嘴に剣を突き刺してから語尾に❤が付きそうな声色で言った。


「こわ…」


息絶えた魔物を足で空に落としたフィリアがパンパンと手をはらう。


『終点白の国ペガスス村に到着いたしました。魔物の被害も少なかったよです。お疲れさまでした』


空車の放送が入り、レンガ造りの駅で停車した。


「被害が少ないぃ?」


ソフィーが胡乱下な声を出して駅に降りた。


「空車には傷が付いていないんだから被害が少ないでしょ…眠い」


フィリアが駅に降りてからライラに寄りかかる。


「おわっ!フィリアどうしたの!」

「眠いの。別にいいでしょ」


半分寝ている状態でフィリアが驚いているライラに言う。


「別にいいけど…他の人が見ているよ?」

「構わないもん」

「構ってよ…」


困っているライラ。





 ―白の国ペガスス村広場―


「じゃ、とにかく元気で15日後に集合。自由時間だぜっ!!」


ルーピンが適当な宿泊日程を伝えて即解散。


「ま、学園長があんなんだからしょうがないけど」


皆諦めて散り散りになった。


14泊15日の詳しい話は割愛させていただきます。

いずれ、番外編を作った時にでも乗せようと思います。

番外編を作る予定は立っていませんが。

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