よく咄嗟にこんな嘘つけるねぇ…
しばし沈黙がその場に落ちた。
「すいませーん。アリア学園の者ですが、この町でとある滅茶苦茶極秘任務を受けていて城主さんにご協力を頼みたく、この町に来たのですが…」
スラスラと嘘をついたフィリアをライラが凄く感心した目で眺めています。
「嘘つけ。じゃあなんで裏口から入って来た!」
「本当ですよ」
フィリアはポケットに手を入れ生徒手帳を見せる。
「…信用できん」
「ですよねぇ…」
それを聞くと彼女は手帳をポケットにしまう。
「どうすんの、フィリア」
「…こうする。私に従え!さもなくば撃つぞ」
バッと手帳の代わりに彼女は拳銃を取出し、パンと威嚇で壁に打ち込む。
「ただの銃じゃ我々には効かぬは!!」
「降伏しないのね?」
「当たり前だろ!!」
「…わが魔力を込めし弾よ、すべてを凍らせろ!」
バンバンと青いものがまとわりついた銃弾が兵士たちにあたる。
足元にそれぞれ一発ずつ当たっただけだが、兵士たちは床に倒れた。
残ったのは隊長格の兵士だけ。
「降参して、さっさと城主の所に案内しなさい」
超上から目線で呆けている隊長に殺気を込めて言うフィリア。
「ダメだ!そんなことできるか!」
「お前に拒否権はない。これは命令だ」
「こ、怖い…かも?」
ライラが横から眺めていて呟いた。
「ひ、ヒィイ!!」
隊長はみっともなく悲鳴を上げるとギクシャクと歩き出した。
「最初からそうしてればいいのよ、バカ」
ぼそりとあらぬ方向に呟いたフィリアをライラは心底怖いな、と思った。
「ところでフィリア。本当に城主を殴るの?」
小声でフィリアにライラは尋ねて見た。
「…ここまでで良い」
ライラを無視して、フィリアは前を歩いている可哀そうな隊長に告げた。
そのとたん彼は飛ぶように走って2人の前から消えた。
「は、はや!!」
「ふん。ここに城主がいる」
真っ黒な扉の前に立ってライラへ厳かに伝えたフィリアへライラは聞いてみた。
「ねぇ、凄く素朴な疑問なんだけどさ、殴ってみて違う人だったらどうするの?」
「…そんときはそんとき。だいたい、私が間違える訳ない。それを知っていてあの人は私に持って来たんだから」
「あの人って?」
「内緒」
「誰なの~?!」
「入るか」
思わず叫んだライラを無視して扉を開けようとして途中でやめ、フィリアはライラの方を向いた。
「そうだ。お前が先に入りなよ」
「え?いいの!じゃあ、たのも~!!」
い、いつの時代の人間だよ…とフィリアはその時思った。
ライラが扉をバンっと開いて中に入ると矢が飛んできた。
「ヒィ!!あ、あた!」
「やっぱり…」
フィリアはライラが寸前で避けた矢を叩き落としながら呟いた。
「や、やっぱりって分かってて私を先に行かせたな?!この裏切り者!」
冷や汗たらたらなライラがフィリアに怒鳴った。
「さぁね。で城主さん、不意打ちとは、よくもまぁ卑怯な手を使ってくれたじゃない?分かってるのかしら?」
やっぱりフィリアは気にせずに謁見の間にいた城主に聞いた。
「不意打ちなのはそちらの方でよ、オホホホホ!」
「はあ…」
城主の隣に座った少女がライラには目もくれず、フィリアに向かって高笑いした。
フィリアはあまり関心なさそうにため息をつく。
「!!…い、いやぁ!!な、なんなの!!か、雷でも落ちるのですか?!城主様ぁ!」
そんなフィリアを見て少女が目を丸くして隣に座る城主にすがった。
「か、かなりひどい言われようだよ、フィリア?」
ライラが恐る恐る隣のフィリアを眺めた。
「お前、誰?」
が、フィリアは少女の言動から察するに既知だと思われるが全く分からないようだった。
ポクポクポク…
沈黙が落ちました。
「わ、わたくしを覚えてないのですか!!王宮で…」
「ああ…お前エリカ・ノザンヴァイルだな?」
少女が、何かを言おうとするのにフィリアが声を出してかぶせた。
「本当は、覚えていらしたのに忘れたフリをなさったのですか!」
「まさか…そんなに要領のいいことはできないよ…というか、お前なにしてんの?」
「知り合い?」
呆れたように言ったフィリアにライラが聞いてみた。
「王都に居た時のね。ええと、城主さん。あなたはこの大雨を町民からとった魔法税で降らしているのですか?」
「その通りだが、良く分かったな」
ずっと喋らなかった城主が口を開いた。
「今までは反乱をせずこの町を良く治めていたのに、何故!こんな真似をするのですか!!」
フィリアが珍しく感情を込めた叫びを放つ。
「フィ、フィリア…?」
ライラが驚いてフィリアの方を振り返る。
「何故…と聞かれればそれは、何処かにいる第3王女への復讐の為だ」
城主がゆっくりとフィリアへ告げた。
「それ、雨降らせることと全然関係ないじゃん!!」
それを聞いたライラが思わずつっこむ。
「そんなことはない。彼女は正義の味方を気取っているからこんな事態があればここに来るだろう。今のお前達のように」
「…私たちは王家の人に任務として言われたから来たわけで、別に正義の味方を気取っているわけじゃないのだけれど?それに第3王女はお前らが思うほど悪い奴じゃないの!」
「い、いきなり何を言い出すの、フィリア?!」
青ざめているフィリアを見てライラが叫んだ。
「それから、私は…貴方をぶっ潰す!」
フィリアは青いオーラに刀身を覆われた剣を何処からか取り出すと城主に向かって走り出した。
「ちょ、フィ、フィリア?!」
様に見せかけて、ライラの後ろに回り、床を凍らせると彼女を押した。
「行け!砕けて花を咲かせろ!」
「ひ、ひど!!――いったぁ!!」
床が凍っている訳ですっかり油断していたライラは床を滑るとエリカと正面衝突した。エリカがライラに怒鳴る。
「な、何をするのですか!こ、このわたくしの顔にぶ、ぶつかるなど!!」
「ふん。それがどうしたというのだ!」
「時間稼ぎ、ご苦労様」
フィリアはわめく3人を思いっきり無視してガンッと握っている剣を凍りついた床に突き刺した。




