男に使うメモリーはないが、お前のはいっぱいあるぞ
変な責任感を発揮させたライラは、レオに連絡水晶を使ってアレクサのことを話そうとする。
「ちょ、ま、待って!!だっ、ダメだよ!!ま、まだ、早いってば!!」
慌てたフィリアが制止するのも聞かず、ライラは手早くレオとつなぐ。
『…んだ、ライラ』
寝不足ですーって顔に出ているレオは不機嫌そうな声でライラに問いかけた。
「あのね、レオ。悪いお知らせといい知らせがあるよ。どっちから聞きた」
『どちらも聞きたくない。今忙しいんだ』
ライラの幸せそうな表情にむかついたのかレオはブチリと通信を切った。
「ああ、ちょ!?」
「良いってば、ライラ!余計なことしなくてっ」
ライラの手からフィリアは水晶を奪い返そうと手を伸ばす。
「フィリア、やっぱり伝えておかないか?流石に手に余る」
まだまだやむ気配のないプレゼント落としにファイナは、疲れたのか妥協しようとする。
「違っ…あ、う…だ、だって!!だってだって!!」
カァと頬を赤らめるとフィリアは床をバシバシと叩く。
「恥ずかしいのか、フィリア?」
「姉様にはわからないんだよ!!」
ピキッとファイナの眉間にしわが浮かぶ。
「あーあ」
「フィア。それは、私に結婚相手が見つかったことのないことを揶揄しているんだろうな?フッ、いいだろうその挑戦!受けて立ってやる!!」
「ハゥ…」
ファイナに雷を落とされたフィリアはガクリと頭を垂らす。
「レオーレオ―。応答願いますー」
『着拒にするぞ、テメェ』
再びライラに連絡されたレオは、コールがやまないので仕方なくとって、脅す。
「じゃあ、勝手に話すね。悪いことはー、フィリアにナルシス君が贈り物魔法を使ってるってこと」
めげないライラは、レオがそれでも一応聞く体勢をとってくれたことにホロリとする。
『それをさっさと言え、このバカ龍!!』
バシンとレオが机をたたいて、積み上げられた書類がなだれたのを見てしまったライラは、どうしようか悩む。
『…しまった』
レオテメェふざけんなー!!というクライトの絶叫が水晶越しに響いてくる。
「って言うかどうしたのその山」
『…聞くな。で、いい知らせというのもあるんだろう?』
頭を抱えるとレオは話題を変える。
「あ、聞いてたんだ」
流された前回の連絡を聞いていたことにライラは驚きを隠さないで素直に顔に出す。
『ああ、もういいからさっさと言え。バカにされた気分だ』
「うん。フィリアが婚礼衣装作ってるよ」
『そうか』
やけにあっさりとレオは頷いた。
「レオ、聞いてた?」
『それは、頭をぶん殴って、顔も殴り飛ばして整形してから…。ちょっと待て。…ん?…もう一度』
が、頷いたのは向こうで話しかけられていたことについてだったらしく、ライラの確認にレオは催促をする。
「仕方ないなぁ。フィリアが婚礼衣装作ってるよ」
レオは、やれやれと言った感じで肩を竦めたライラに湧きあがった怒りを押さえた。
『そうなのか?お前がでっち上げた嘘じゃないだろうな』
「そんな嘘ついてもおいしくないじゃんか!」
ずいぶんと信用ないなオイ!とライラはレオへ食って掛かる。
『イヤ、お前のことだ。俺が喜ぶところを見て笑うだろ』
「そんな性質悪いとこしないよ!!」
フィリアのエェという表情を見たライラは必死でレオの言葉を否定する。
『俺ならするが…』
「あんたの基準に合わせんなバカ野郎!!」
「レオ…相変わらず根性が捻じ曲がっているようだな」
『ファイナさん、お久しぶりです。結婚相手探しは順調でしょうか?もしよしければ緑の国からも候補者を…』
呆れたような顔をしてライラの手から水晶を奪い取って放しかけてきたファイナに、レオは怒らせるとわかっていての話題を選んだ。
「い ら ね ぇ !!」
『そうですか…。で、要件は?』
とか話している間にもレオの机に積み重なっていく書類。床に山を築いていくプレゼント。
「何このシュール」
「つっこんじゃいけないよ、ライラ」
ファイナの中で、結構話が自己完結していって。結局話したのは、
「レオ。私の妹を嫁にするんだ。幸せだろうな?!幸せじゃないとか言ったらその口縫い付けるぞ!!」
予定の物とはずいぶんとかけ離れた話になりました。
『口が裂けても言いません』
「じゃなくて!姉様話が違うでしょ!?」
「あ、ああ。すまないな、フィリア。ええと、そうそう。ナルシス君?とやらを懲らしめてもらいたい。そのかわりに私のかわいくていとおしくて愛らしくてかわいくて美しくて美しくて抱きしめて監禁して深窓の王女にしたいような!完璧ででもドジっ子で
「姉様、わかったから!!わかったから、わかったので…恥ずかしいから、やめて!!」
止まりそうにないファイナの妹自慢に、フィリアが耐え切れず話を遮って悲鳴を上げた。
『ナルシス?誰ですか、それ』
「記憶から抹消されてる!?」
『男に使うメモリーはない』
「女の子にはあるんだ?」
『妬くなフィリア。俺の記憶はお前でいっぱいだ』
堂々とレオは惚気る。
「よくそんな恥ずかしい言葉サラッといえるよな!」
羨ましいぜっ…!!とライラは涙をぬぐうふりをする。
『恥ずかしい?…フッ、もっと恥ずかしい言葉を素で言ってのけるやつを知っているからな』
「え、誰!?」
『本人の名誉のために伏せておこう』
話しが逸れ始めたので、ファイナは咳払いをして本題へ戻す。
「で、受けてくれるのか、受けないのか」
『受けます。で、ナルシスって誰ですか』
「昏国第3皇子だろう?」
『あー…そんな奴いたようないなかったような。やっぱりいましたね』
「じゃ、頼んだ」
『頼まれました』
快く了承すると、レオは通信を遮断した。
「さて、レオに頼んだしこれでゆっくりと…ゆっくりと…」
ガクリと膝をついてファイナは目の前の惨状にうなだれる。
「折角仕分けた生地が…」
ハァとため息をついてフィリアは近くに落ちていた生地を手に取る。
「ぐしゃぐしゃだね」
「もう、いい!!わかったぞ…全員出動!!」
「「「はいっ!!」」」
フィリアの叫びに応じて、窓から天井から床下から壁から…いろんなところから黒服を着た奴らが現れた。
「私のかわいくて…(以下略)な妹のための生地選びだ!!さっきも見ていたからわかると思うが」
「わかりましたファイナ様」
「ファイナ様のためならば!!」
ちなみに全員女性。
「えと、フィリア。この方々は?」
「姉さま直属の軍人さんだよ」
「…そう」




