レッツ闇堕ち
「フィリアが…消えた?」
レオは、フィリアの気配を追っていたが突如として感じられなくなったから、ダッシュする。
「まさか、あそこに…」
フィリアの気配が消える直前にいた場所の周囲にあるモノを思い出したレオは踵を返す。
「おい、起きろクライト」
「ぐぅ」
夜中にレオにたたき起こされたクライトは、寝たふりをする。
「…お前、あそこの管理はどうなっている」
「はぁ?何の話だよ、いきなり。こんな夜中に」
深刻そうなレオの声色に、クライトは上体を起こして時計を見て文句を言う。
「まだ寝ぼけてるのか?それともきちんと言わないと理解できないか?フィリアの気配が途切れた。心当たりは」
「え、あそこで?」
「そうだと言っている」
理解の遅いクライトにレオはイライラしてくる。
「…まずいな」
状況が呑み込めたクライトは額に手をあててうめく。
「何か、いるのか」
「ばぁさんの気配…それから、大量の死が…遅けりゃ廃人になっちまうぞ」
クライトの言葉にレオは眉をあげる。
「あそこはお前の管轄のはずだが。浄化していたのか」
「してるんだが…しつこい奴らが残ってたんだな。すまん、俺のせいでもある。さっさと助けに行こう」
「それを待っていた」
起きあがって上着に手を通したクライトに、レオは窓を開け放って外へ飛び出る。
「っていうか、フィリア様はフェカ神がついてるだろ?なんで死人になんか捕まるんだ」
「知らねぇよ。俺が知りたい」
ぶっきらぼうに言うとレオは、目的地まで最短距離で走っていく。
『御嬢さん、怨んで恨んで闇に落ちてしまい』
「や…!」
ブンブンと首を振り、フィリアは後ずさる。
『御嬢さんは死人が好きな感情をたくさん持ってるからねぇ』
「っ…、う」
カツンと踵が壁に当たったフィリアは逃げ道を探す。
『ここからは逃げられないよぉ。だって、ね』
――――ここは、御嬢さんの創造で作られる世界なんだから
「や、だよ…、そ、んな非常識なことが起こるわけないでしょ」
老婆の囁きで立った鳥肌をさすりながらフィリアは必死に否定する。
『潜り込ませてもらってるわけ、さ』
「なら、でてって!」
『やだね。こんなにも使い勝手のいい体、手放すわけないだろう』
「どういう、こと」
こわばった声で、フィリアは老婆の真意を問う。
『そのまんまさ。御嬢さんの体は、儂たちが使わせてもらってる』
「勝手な事…言わないで!」
言うなりフィリアは老婆めがけて飛びかかる。
『フヒャヒャヒャ。無駄ムダムダァ!!』
後ろから殴りかかられたフィリアは避けられず、地面へ倒れた。
『御嬢さん。儂たち、にはかなうまい。抵抗なんてせずに楽にしておしまい』
老婆の甘言にフィリアはキッとまなじりを吊り上げて言う。
「…絶対、迎えに来てくれるもの。諦めない」
『往生際の悪い御嬢さんだこと。喧嘩して、浮気されてしまってるのにねぇ』
フィリアの気配が途切れたところまでやってきた2人は、顔を見合わせて話し合う。
「オイ…まずいぞ、レオ。しっかりと闇落ちしてる」
満月をバックに立つフィリアは虚ろな目をしていて、半分折れた剣を握りしめて力なく立っていた。
「しっかりと闇落ち、な。なんか変な文章だが」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。どうするんだよ」
「…まぁ、原因は俺にあるから?ちょっとからかおうと思っただけなんだがな」
「何したんだよ」
レオが完全に非を認めるのは珍しいことなので、クライトは問いただす。
「いや、お前には関係ない。準備は良いか」
「ああ」
「《結》」
クライトが頷くのを見ると、レオは結界を張り巡らす。
「《闇よ、深淵なる闇よ、払われたまえ》」
クライトが手に持つ鈴がシャランと涼しげな音を立てると、周囲の闇が少し薄くなった気がした。
『御嬢さんの心を返してほしかったら一人でくるんだ、緑葉』
フィリアの口は動かないのに、しわがれた老婆の声が響く。
「…フィリア」
不用心にレオはフィリアを乗っ取ったナニカに近づいて、頬へ手をあてる。
フィリアの手から折れた剣が地面へカランという音を立てて落ちた。
『バカだねぇ。あんたの愛しい女は闇の中、さ』
「フィリア、俺が悪かった」
声を無視してレオは静かに謝罪する。
『緑葉、よくきけっ!!あたしゃ、あんたが憎くて!復讐がしたくてっ!!あんたを殺すのは私なんだよ!!勝手に殺されやがって!!』
「俺は、その緑葉ではない。同じレオかもしれないが、あんたが惚れた緑葉とは別の緑葉だ。わかってるんだろう。未練がましいくそ婆」
『かえさない、かえさないよ!!この娘は私の物だ!』
「それは困る」
フィリアが後ろをむこうとするのを抱きしめて阻み、レオはクライトへ目で合図する。
「《ユラリゆらりと揺れる世界の果てで、お前もまた使者となり深くへ沈む。今、傷ついたその御霊を休め深くへ眠れ。鎮魂せよ、謝礼せよ、静まれ汝らの魂》」
パンと柏手を打って、クライトは簡易的な鎮魂の儀式を行った。
「フィリア、…フィリア?」
抵抗していたからだから力を抜いたフィリアに、レオは不安げに声をかけるが返答はなく。
「…まさか、な?」
クライトが最悪の予想を口にしようとしたら、フィリアのペンダントが光り、フェカが実体化した。
「心配ない。俺が避難させといたから。こっちにいる」
トントンと自分の胸を指してフェカはレオに安心するよう伝えた。
「お前がついておきながら、何故」
「悪かったな。神だって万能ではない」
まっすぐに射抜いてくるレオから逃げるように視線を逸らしフェカは答える。
「全く、ここはどうなってるんだ、レオ」
クライトは話を逸らそうと口を開いて兼ねてからの疑問を尋ねる。
「…初代の緑葉レオに惚れた奴の墓場なんだ。だから、ここは代々レオの試練の場として使われている。使わない間は鎮魂をしておかないと悪霊が屯して今みたいな事態になる」
「初代レオというと、建国の?」
「そいつ意外に誰かいるのか。で、フェカ。問うが、フィリアは大丈夫なのか」
「しばらく寝てれば治る」
ヘッとフェカは答え、レオからフィリアを奪いとる。
「コイツは青の国預かりな。…あいつらに怒られてくる」
「ああ」
ヤダな―リラン怖いんだよなーとフェカは情けないことを呟きながらワープをした。




