女装ってさ・・・女装ってさ・・・トラウマになるよな
「さて…と。勇者が2名か」
レオはこれから住むことになる部屋を見て歓声を上げているアイに聞こえないよう、呟いた。
「何か問題なの?」
隣で聞いていて首をかしげたフィリアへレオは説明するように漏らす。
「戦力のバランスが思い切り崩れたな…。どちらかの勇者はフィリアに任せようか」
「それならユメのほうがいいな」
邪気のない笑顔を浮かべたフィリアをレオは抱き寄せる。
「フィリアかわいい」
「え、ありがと」
突然ささやかれたフィリアは、戸惑いながらも礼を言う。
アイは、ためらいがちにレオへ声をかけた。
「あのぉ~」
「なんだ、勇者?」
「その、案内とか…」
「適当な人間を捕まえて頼め。俺は忙しい」
グッとフィリアを引き寄せると、レオは部屋を立ち去る。
「え、ちょ…あの!?」
早足で廊下を歩くレオに遅れないよう足を動かしながら、フィリアは問いかける。
「レオ?いいの、ほっといて」
「構うものか。天真爛漫な奴は嫌いなんだ」
「…擦れちゃって」
フフッとフィリアは笑って、レオと歩調を合わせる。
「そこら辺を通った男でも誘惑してどうにかするだろ、アイツは」
「なんで出会ったばかりなのに断言できるかなぁ…」
フィリアに恨みがましく言われたレオはそっぽを向く。
「ああ、レオ!」
ユメの手を引いて向こう側から歩いてきたクライトに声をかけられたレオは無視して通り過ぎようとする。
「レオ…」
呆れたようにフィリアに名を呼ばれて、レオはやっと立ち止まる。
「なんだ?…一歩前進したか」
「それはまぁ…じゃなくて、勇者どうした?」
ポリポリと頬をかいたクライトは、レオに本題を切り込む。
「部屋で泣いてるんじゃないか?俺は知らないな」
「なんだ、また何かやったのか?」
「知らないって…」
クライトに問われたレオは明後日の方向を向く。
「仲良いよねー、2人とも」
ピピピピピと機械音が廊下に響いた。
「うわっ、わぁ!?」
音の発信源となったフィリアは3人の迷惑そうな視線を注がれ、慌ててポケットを探る。
フィリアは携帯端末を取り出して、通信をつなぐ。
『フィー…いい加減帰ってこないの?そんなに僕たちが嫌だ?というか勇者を1人連れ帰ってきなさい。いいね?』
悲しそうなリランが画面に映り、フィリアへ伝えた。
「あ、はい!兄様わかったけど…どうして?」
『勇者を解剖…ごめんね。勇者なら実験にも耐えられるんじゃないかなぁと思って…。アースのにも、リナのにも僕はそろそろつきあいきれなくなってきたからね。歳をとるって嫌だね。父上はさっさと王位を譲ってくれないのかな』
フィリアの後ろから画面を覗き込んでくるユメの姿に気付いたリランは、言った言葉を否定して謝り、哀愁を漂わせる。
「…兄様、何か辛いことでもあった?わかったよ、ええと…」
フィリアに視線を注がれたユメは、ぶんぶんと首を振る。
「フィリア、お願いだから私を連れてくよとか言わないで!!」
「それもそうだけど…」
フィリアは言葉に詰まって、レオの方を振り返り助言を求める。
「妹の方なら構わないぞ。迷惑を振りまかれても困るからな」
「わかったよ。なら、兄様もう1人の勇者のほうを持って帰ります」
『うん。別に勇者ならだれでも構わないからね。ただ…あまり面倒事を作らない子だといいな』
「…ごめんなさい!!」
一応謝ってからフィリアは、通信を切り、ユメの手をギュッと握る。
「な、なに?」
「妹さんの命の保証はできません!!ごめんなさい!でも、私のせいじゃないから、逆恨みはしないでね。兄様たちを怒らせた妹さんが悪いんだから!」
早口でフィリアは困った表情のユメへ伝える。
「怒らせたの!?」
何かしちゃったのあの子!?と驚いたユメへレオが補足を入れつつフィリアを叱る。
「いや…怒らせるのを前提で考えるな」
「だって…だって…」
グッと拳を握って言いたいことを我慢するとフィリアは着た道を猛スピードで戻る。
「あ、フィリア!?」
慌てて追いかけようとしたユメをレオがとどめる。
「ほっとけ。青の王宮に行けば会えるんだから」
「滅多に行けないよね!?」
「いけるぞ。仲がいいからな。自由に行き来できる」
さらに驚いたユメへクライトが説明をする。
「へ、へぇ。そうなんだ。じゃあ、心配はないね?」
「おそらくな…」
ハァと重いため息をつくと、レオはフィリアが言った方向とは逆の方向へ進む。
「追いかけなくていいの?」
ユメはそんなレオに尋ねてみる。
「そうしたいのは山々なんだが、リランさんがああやって怒っているところに行くのは嫌だからな」
「怒ってたの?」
不思議そうにユメはレオへ聞く。
「怒ってた…というか笑っていたというか…。やはり怒っていたという表現がしっくり来る気がするのがリランさんだ」
うんうんとレオは独りで納得して頷く。ユメはより一層訳が分からなくなって頭上にクエスチョンマークをたくさん浮かべる。
「フィリア様が関わると、レオもあそこの王族も途端に面倒くさくなるのが、この世界の特徴と言っても過言ではない。覚えておくといい」
「へ、へぇええ…そ、それって…逆ハー、ですか」
しょんぼりとうなだれて、ユメは廊下を歩く。
「逆ハーなんか、いいことないだろう?全く…男どもが寄ってくると、めんどくさいことしか起こらないんだからな」
「なんか、実感したような言い方が気になるな、レオ?」
遠い目をしてユメのつぶやきに答えたレオをクライトは訝しむ。
「さぁ…。まぁ、な?一応…女装して育つという風習がないわけでもないわけだからな?こう、いや、思い出したくもないな」
クライトに説明しようとしたレオは悪寒が走ったので中断する。
「…女装、か」
思い当たるところがなくもないクライトは聞かなきゃよかった、と後悔する。
「女装したの!?え、ちょ、見たい!!」
目を輝かせたユメへレオとクライトは叫んでやめさせようとする。
「やめろっ!もう、二度としない!!」
「やめようか、ユメ!人の傷口えぐって楽しいか!?」
「えー…」
不満たらたらなユメに、レオは恐ろしいものを見るような視線を向け、クライトはやめろと声に出さずに伝える。
「女装なんてな、似合う奴がやっていればいいんだよ。すくなくとも…ああ、似合わないやつの女装は恐ろしい…」
「え、レオは似合うでしょ?」
「似合うからこそ恐ろしいものもあるんだよ、ユメ。この話題には触れないように」
クライトが、なおも踏み込もうとしたユメをストップさせる。




