勇者召喚って結構若気の至りっぽくね?
さて、夏休みのある日のことです。
中央に赤く光る巨大な魔方陣が描かれた薄暗い部屋で黒いフードをかぶった男によってブツブツと呪文が詠唱されていきます。というかな夏なのに日光とか遮断したり、部屋の窓という窓に黒い布をかぶせたりしちゃってるから、くっそ暑いです。もう少ししたら熱射病になる奴が出るかもしれない。
「我が声によばれ、巨大な力をもつものよ、今召喚されたまえ!」
「「《勇者召喚》!!」」
「あ、《勇者召喚》」
「…あ《勇者召喚》」
数十人が男が手を高く掲げるのに合わせて、召喚の儀を完了させし呪文を高らかに叫びます。
何人か忘れてたりボーとしていたりしてタイミングがズレましたが、儀式は見事に成功して、魔方陣はひときわ明るい赤い光を放つと輝きを失います。
「よし…思い知るがいい!!勇者の恐ろしさをっ!!アッハハハハハ」
黒フードの男は中央で高飛車に笑います。
「マデュラ兄様~、昼食の時間ですよ」
「お、もうそんな時間か」
ペイっとフードを投げすてるとマデュラは、蒸し暑い部屋から外に出て伸びをしました。
「兄様、何をなさっていたのですか?」
「ん?ああ、異世界からの勇者の召喚だよ。うまくいったからね…今頃はアイツの所に現れていることだろう!!困ればいい!!」
誇らしげに宣言したマデュラにミチルは少し考えてる。
「…兄様、それって勇者という敵が増えただけなのでは?」
「………」
マデュラ、ミチルに指摘をされて無言になる。
「兄様?」
「あ、あ…アハハハハ!!そんなことはオミトオシさっ!兄さんをなめるでないよっ!大丈夫、きっと女だろうから、仲をうまく引き裂いてくれるだろう!!」
カラ笑いと、ひきつった声を出すとマデュラは早足で歩きだす。
「今気づいたって表情をしてましたけどね」
ボソリとミチルはつぶやいたが、マデュラは聞いていなかった。
―――――――てなわけで。勇者召喚、しちゃいました(笑)。
どこかの世界のどこかの国のどこかの不運な黒髪二つ結びの少女。
「穴っ!?待って、お、落ちる――――!!」
突如足下に現れた赤い穴にはまり、落下。
場所代わることの緑国王宮。
今日も今日とてレオは逃げた親父の代わりに政務をこなしています。
今は休憩と称して少しサボり中。
「きゃああああ!?わああああ!!」
と、廊下を歩いていたら上から少女が落っこちてきた。
「…」
レオは避けようと一瞬判断してから、相手が受け身を取れそうにもないのを見て受け止めることに決めなおす。
「いっやああああ!?」
「…おい、大丈夫か」
ギャー!と悲鳴を上げ続ける少女にレオは嫌そうに声をかける。
「ダメっ!!もう無理!死んじゃったんだ!なんか天使が見えるもん!!メッチャ不機嫌だよ!?あれ、私神様に嫌われるようなこと何かしたかな!?」
早口で少女は思いをほぼすべてまくしたてる。
「…死んではいないんじゃないか?重いから落としていいよな」
呆れたレオは少女を下へ落とすように手を放す。
再び小さく落下した少女はしりもちをついてレオのことを睨みつける。
「イタイし!!お、重いだとっ!?ちょ、失礼だなっ!!あれか、残念な美形って奴か!?この天使!!」
「俺は天使じゃないから安心しろ。どうせどこからか落ちてきたんだろう。どこだ」
レオは少女の思い込みを否定すると、凄く深いため息をつく。
「え、と…日本人だよ。あ、そのぉ金髪だけどえ、英語とか!?ド、ドゥユゥアメリカァン?あ、って言うかこれ世界トリップって奴だよね!?うわぁい!逆ハーとか!?美形多そうだし…いけるかな?女子の夢だよね。後私平凡な顔立ちだから、モテるんじゃない!?小説的においしいよね!!」
少女は、頑張れば美人なのに残念な独り言を大声で吐く。
「名前はなんていう?それから…心の声がダダ漏れすぎて逆に怖いから黙れ」
「人の名前を聞くときは自分からだよ!後…漏れてた?」
きまり悪そうに少女はレオを見上げる。
「俺はレオ。日本…か。少し遠いな。まぁ…同じ感じで時を刻むはずだから急ぐ必要はないし、そちらも夏休みなのだろう?ならば急ぐ必要もないか。しばらく滞在をしていろ。逆ハーレムを作っても構わないから。ただし、俺の仕事の邪魔とフィリアの邪魔はするな」
しっかりとレオは釘を打って、少女の反応を待つ。
「え、許可降りるの!?フィリアって誰だよ後ここどこだよ!夏休みでも親が心配するわっ!さっさと…いや、逆ハーか…逆ハー、夢だよなぁ。よし、残らせてもらいたい!」
「で、お前の名前は?」
「あ、ごめん。私はアイザキユメ。花の女子中学2年生だよっ!」
「そうか、ユメ。お前、邪魔だからドッカぶらぶらしていろ。何か言われたら俺の名前でも出しとけ。王宮を出た場合の補償はしないからな」
薄情なレオはキャハッと決めたユメの台詞をあっさりと流し、その場を去ろうとする。
「ま、待って!待ってくださいぃ!!無反応が一番こたえるんだよ!?ちょ、もう少し一緒に居させてっ!!一人は…嫌だよ」
シュンとしたユメをレオは置いて行こうと踵を返す。
「ちょ、この薄情者!!」
「悪いな。…一人が嫌なら、ついて来い」
盛大な溜息を吐くとレオはユメを連れて政務室へ戻る。
「遅い!!何処で油売ってやがったこの野郎!!って、オイそれは誰だ。また女ひっかけたんじゃ…」
扉を開けた瞬間飛んできた怒声にユメを目を丸くする。
そんなことにはお構いなしで、クライトは素知らぬふりをしたレオに突っかかる。
「フィリア様が泣くぞ!!」
「大丈夫、問題ない。勇者召喚に引っかかった哀れな少女を匿っているだけだ。いつか帰るだろ。落ちてきたからな、拾ってしまったしその場に放置もできないだろう?」
レオはいちばん奥の机に座って近くにあった書類を読み始める。
「いや、しようとしてたよねっ!?」
レオの言葉にユメはツッコム。
「成程、勇者だな」
それを見てクライトは納得した。仕事モードに入ったレオには、ツッコミなど入れられないのだから。それこそ勇者しか。
「ああ、ユメ。クライトにでも王宮を案内してもらえ。後この世界での常識と礼儀作法もすべて教えてもらっておけ」
チラと書類から視線をあげ、レオはユメとクライトに命令を出す。
「いや…あのなぁ、お前はこのあいだぶったおれたばかりで」
「一日休んだからもう平気だ。それに…これを放置するわけにはいかない。が、勇者を放置するわけにもいかないからな。お前がいようがいなかろうが効率は変わらない」
言葉を切ったレオは、部屋に柱のごとく積み重なっている書類の束を見て、ため息をつき、クライトとユメを追い出した。
金髪の人見ると、アメリカ人ですか?ってとりあえず聞いてしまったユメ。
駄菓子菓子、Do youではなくAre youなのだよ、フハハハハ。
間違ってるぜ、ユメよ。中二にもなって恥ずかしいやつだな、おい!
・・・みたいな。




